地形を旅した 袖振る布留



つづき


吾妹子(わぎもこ)や吾(あ)を忘すらすな
石上(いそのかみ)袖(そで)布留(ふる)川の絶えむと思へや

(訳)
吾妹子よ私をお忘れになるな、石上の袖を振る布留川の水のごとく
絶えようなどと、どうして思おうか

吾妹児哉 安乎忘為莫 石上 袖振川之 将絶跡念倍也

                 作者不詳 万葉集 3013 

             参考:『万葉集(三)』中西進 著 



未通女等(おとめら)が袖(そで)布留(ふる)山の瑞垣(みづがき)の
久しき時ゆ思ひき吾われは

(訳)
神のおとめ達が神を迎える袖を振る、布留山の杜の瑞垣が年久しいように、
長い月日をずっと恋いつづけてきたことだ、私は。

未通女等之 袖振山乃 水垣之 久時従 憶寸吾者

               柿本朝臣人麻呂 万葉集 501
 
             参考:『万葉集(一)』中西進 著 



万葉集中、布留を歌った歌の中から二首。


昔の人は袖を振ることに呪術的な意味を感じていた。

ゆれる袖に魂がゆさぶられ、命が活気づく。たまふり。
ないし招魂。鎮魂。

愛しい人に袖を振る古来の習俗。
そのためか石上布留(ふる)が織り込まれた歌はほとんどが恋の歌。


石上は、ヤマト王権の京(みやこ)が奈良あたりにきてからは、
ヤマト王権の道を切り開いてきた剣(太刀)がまつられるようになり、
ふっつ(ふつ 布都 刀を振る音)と邪を払い道を切り開く
その霊力が神としておまつりされたけれども、

万葉集には、石上の剣の威力を織り込んだ歌はなく、

多くの万葉人にとって、
石上は剣をふるう布都(ふつ)の山でなく、
石上は、袖を振る布留(ふる)山だったようだ。

石上は袖を振る布留(ふる)。恋の歌ばかりだ。


万葉仮名で布留は振と書かれているものが多い。


また石上の語が布留(振)の前について、
石上+布留(振)でひとつの言葉のように使われた。





たまふり 石上神宮
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・2011-09-01 中世芸能の発生 411 こもる こもりく 参籠 たたなづく青垣
・2011-06-19 中世芸能の発生 400 遊び 神楽
・2011-04-19 中世芸能の発生 387 桐の花 自然という底流
・2011-08-07 中世芸能の発生 404 祭り 御霊会 たまふり 鎮魂



ひろめく剣 ひらひら振る袖 
・2010-02-21 中世芸能の発生 288 自然 身体 実感
・2010-02-20 中世芸能の発生 287 ヒロメク 蛇 剣
・2010-02-19 中世芸能の発生 286 ヒレ ヒラ ヒレ有る骨柄





・2008-10-28 地形を旅した 冬にふる
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・2008-10-28 地形を旅した 布留でする恋
お能の石上の布留   ダジャレのような筋が何気に残念・・



・2010-08-24 中世芸能の発生 346 しづやしづ しづのをだまき くりかえし



つづく
by moriheiku | 2008-10-28 08:00 | 歴史と旅
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