芸能の発生 古代~中世 02 ことわざと歌


つづき

連歌と和歌の性質は違う。
和歌について。

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元来、民間伝承は、言葉の外は、何も伝へるものが無かつた訣であるから、言語伝承は伝へるものゝ総てだ、と考へてよい筈である。而も、言語といふものは、直ぐに消えて了うて、そこには、たゞ信仰的なものゝみが残る。それで、呪詞・唱詞系統のものが、永遠の生命を保つ事になるのである。そして、記録が出来ると、伝承の為事は、それに任されるやうになる。

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一体文体が、口頭伝承と言語とに、分化したのは、どういふ訣かといふと、畢竟は、口頭伝承を尊敬する考への出て来る所に、原因してゐると思ふ。今私は、文語は、口の上に記録し、頭に記憶する責任を感じてゐる文章だ、と云うて置きたい。文語には、尊敬に伴うて、固定がある。此に反して、言語は段々、発達して行く。こゝに、分化が生じるのであつて、其が愈、紙の上の記録にうつると、そこに截然と、区別が立つて来る。

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尚、文語に関しては、もつと立ち入つた考へを述べねばならないが、其に一番適切なのは、呪詞・唱詞である。此は、永遠に繰り返さねばならぬものと信じられて居たが、段々脱落変化して、其うち、最大切なものだけが、最後に残つて、歌と諺とになつた。諺は、私の考へでは、神の言葉の中にあつた命令だと思ふ。即、神の言葉にも、次第に、会話と地との部分が出来て、其中の端的な命令の言葉が、諺であつたと思ふ。此に対して、神から命令をうける者――すぴりつとのやうなもの――の応へる言葉があつて、その一番大事な部分が、歌であつた。それ故、歌には、衷情を訴へるものがある訣である。
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折口信夫『古代に於ける言語伝承の推移』 から抜粋。



柳田國男においては、
諺(ことわざ)のルーツは、国と国との戦いで生まれた、
戦うための言葉のツールのように考えられたようだ。



折口信夫は、
歌と諺(ことわざ)は、
同じところに発したと述べる。


祝詞など唱える言葉の中で、
要点、もっとも大切な部分が、
諺と歌になったと見た。



唱える言葉には、
その言葉を唱えることで、
それにかぶれる、かぶれさせるという役割があった。


感染する、感染させる。

唱えた言葉を現実にする。



諺は、 こと + わざ。

原因と結果である。



それで、原因と起きることをあらかじめ唱えることで、
そのようになることを期待した。


おきてほしいことを実現する。

祝 と 呪 は、
願いを現実にする 祈 において同じものだ。 




例えば、将来をほめる、将来をあらかじめ言祝ぐことで、
将来そのような状態になることを祈る。


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萬歳の春の初めの祝言は、柱を褒め、庭を讚へ、井戸を讚美する。其讚美の語に、屋敷内の神たちをあやからせ、かまけさせようと言ふ信仰から出てゐる。單に現状の讚美でない。ほむ・ほぐと言ふ語は豫祝する意味の語で、未來に對する賞讚である。其語にかぶれて、精靈たちがよい結果を表すものと言ふ考へに立つて居る。言語によつて、精靈を感染させようとする呪術である。其上に言語其物にも精靈の存在して居るものと信じて居た。「言靈(コトダマ)さきはふ」と言ふ語は、言語精靈が能動的に靈力を發揮することを言ふ。言語精靈は、意義どほりの結果を齎すものではあるが、他の精靈を征服するのではない。傳來正しき「神言」の威力と、其詞句の精靈の活動とに信頼すると言ふ二樣の考へが重なつて來て居る樣である。
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折口信夫『呪言と敍事詩と』 から抜粋。



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つづく
by moriheiku | 2008-07-28 08:00 | 言葉と本のまわり
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