うつつ



 
夜明け頃、一度目を覚ました。

眠っているつもりだったのに、
ずっと、古代のことをあれこれ考えていたのに気付いた。


古代史について考えを進めるのならいいのだけど。

寝るときは、何かをずっと考えてしまうことがある。
考えないように、忘れよう、眠ろう眠ろうとしても、
イツノマニカぐるぐる考えていて、
頭を離れない。


おそろしい。


昔から人は、この状態を、
とらわれた人の死後の状態と見たのだろう。

わかる気がする。





江戸時代の『耳袋』の中だったか、あ、そう、
杉浦日向子さんの漫画『百物語』で見たハナシ。

ある人の細君が亡くなった。
昼も夜も家の井戸を覗き込む細君の幽霊が出るようになった。
井戸の中に何かあるかと井戸をさらうと、
底にこんにゃくがあった。
亡くなる少し前、細君が落としたものらしい。
取り出して以来幽霊は出なくなった。
たった一枚のこんにゃくで人は迷うものかと。

ってハナシ。




折口信夫著『死者の書』の大津皇子もそう。


縊れ死ぬと決まってから、皇子の心は鏡のように澄みきっていた。
鏡のような心で縊れて意識の絶えるその時、
見物人の中に居た、耳面刀自(みみもとじ)をひと目見た。
皇子はそこに心を残した。


知り合いでない。はじめて見た人。
一度見た。ただそのことだけが。

鏡のように静かに澄みきっていた皇子の心に、一滴なにかが落ちた。


それから眠っていたような、時間もわからぬ長い死の間、
皇子はただその一点で、朽ちきらなかった。




妄執。


もうね、夢うつつの時は、自分じゃわかんないの。
ただぐるぐるとそればかりになる。


こわいわー。
by moriheiku | 2008-07-08 08:01 | 言葉と本のまわり
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