中世芸能の発生 413 ことばと植物



つづき


三月の大きな津波が東北地方の陸に到達したラインに沿うように多くの神社があったことや、

地名の中に、津波など過去の災害に関わる意味が含まれているものがあることが
(例:埋め→うめ)、

テレビ番組で取り上げられていた。


番組のキャスターの方が、
今回大地震にみまわれて
我々は自然に対する畏(おそ)れや敬意を忘れていたことに気付いた、
というようなことをおっしゃった。

そして、
津波の到達点に沿って点在する神社や、災害に関連した意味を含む地名を、
昔の人が後世の人々に伝えるために建てた名付けたと言い、

つまりそれらは、昔の人が後世の人へ伝えようとした
昔のジャーナリズムだと言う。


どの口でそう言うのか、と思った。

さっき、人間を中心にして、自然というものを忘れていた、
ということを言ったその口で。

どこまで人中心か、と思った。



どうして私はそう感じたのか考えてみると、
私は、

聖域や古い地名は、
昔の人がその場所に感じた感慨・実感の跡で、

それらは人の行動やことばを通して顕れた土地や自然の性質の表出だと
思っているからだ。



昔の人々が津波が分かれた場所に人知に測れない自然の力を感じたことや、
昔の人がその土地をふさわしい音で呼んだことは、
言ってみれば感慨に近いものだったと思う。

文字より古いことばの音は実感の音。
その自然の性質の音だと思う。


そこから後世の人々が情報を汲み取り、防災に活用することに、
もちろん反対などしない。

けれど、人の体感・感慨を通って表出した、
人に測りしれない自然のありよう、力や性質(この場合神社や地名)を、

昔の人が後世の人に危険を伝えようとしたジャーナリズムだと言って、
人中心に、ご都合よく狭くとらえる意味がわからない。



ことばは人に属すんじゃない。

人の声を通って顕在化するもの。

大地を通って顕在化した植物と同じ。


何かを通して顕れた自然や性質のあらわれという点で、
ことばと植物は同じ。


でなければ、古代にことばをタマなんて言わない。

タマの意のもとになっているのは、
自然の命の旺盛な状態、イノチの力の横溢する状態だったのであって、

例えばコトダマ(言霊)というのは、
人のことばを通して顕在化する、
たけだけしいほどのイノチの力の横溢だった。


それはことばと植物に限らない、
あらゆるものにおいてそう感じられていたことが、
後に、森羅万象に命がある、あるいは
日本仏教では、森羅万象に仏性がある、という思想になっていったと思う。




危険が伝承として語り継がれることはある。

けれども、
はかりしれない自然のありようのあらわれの、
古来神聖とされた場所や古い地名の音を、
人の意図的なジャーナリズムだと言うことは、
植物をジャーナリズムと言うのことと同じ違和感を感じる。


それは自然のありようを人の範疇とするような都合のよい解釈と傲慢に
聞こえたんだ。私には。


自然や、生命や、歴史やさまざまの情報を含んでいる植物や古いことばの音から、
人が物事を取り出し学ぶことはあっても、
それらは人に属すのではないと、私は感じてきたんだとあらためて思った。






古代における神聖とは
・2010-02-04 中世芸能の発生 268 古代における聖性とは
・2010-02-11 中世芸能の発生 274 イノチ ユリの花
・2010-03-16 中世芸能の発生 297 土地の木



祝福
・2011-03-02 中世芸能の発生 384 ことばと自然 祝言



地名と性質
・2011-03-01 中世芸能の発生 383 たるみ 垂水 伏流水
・2011-04-06 見える水 見えない水



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・2007-06-28 言語のレッドゾーン
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・2010-08-18 中世芸能の発生 340 母語
・2010-03-04 中世芸能の発生 291 サチ 弓矢 狩人 開山伝承
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タマの概念 タマに先行するもの
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・2010-06-25 中世芸能の発生 332 魂の概念の変化と移行 翡翠(ひすい)
・2010-07-06 中世芸能の発生 334 タマシヒ 魂 天分 才能 生命力 霊力
・2010-07-05 中世芸能の発生 333 二種類のタマ
・2010-07-07 中世芸能の発生 335 固有名詞にならないもの
・2010-02-21 中世芸能の発生 288 自然 身体 実感





森羅万象に命を見る思想とその展開。
本来の命を生かすため人為的な余計な装飾を最小限にしようとする思想。
・2008-07-10 神仏習合思想と天台本覚論 01

・2008-12-16 本来空
・2007-09-19 ヨリシロ
・2009-08-17 中世芸能の発生 188 作仏聖 円空 棟方志功
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・2009-03-01 草の息




つづく
by moriheiku | 2011-09-06 08:00 | 歴史と旅
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