ぽんさん


ある年配の方のお話を聞いていた。

山方で育ったその方が子供の頃のこと。

お正月前になると、川で魚を獲る「ぽんさん」だったかどうだったか、
そのような愛称で呼ばれていた方が稚鮎を持ってきてくれて、
それが毎年のお正月料理のひとつになったそうだ。

お正月が近づくとお祖父さんが
「そろそろぽんさんに頼んでおかなければ」と
言って。


その方は子供の頃、亀の肉を食べたことがあるそうだ。
やはりぽんさんがさばいて持って来られたのを食べた。

「万年生きる亀の肉?! 食べたら万年生きてしまいそう」
って私が言うと、

亀の肉は、食べた、と人に言ってはいけないような、
そういうものだったのだという。


ぽんさんは上流で漁や猟をして、それを持ってきてくれる。

大物が多く獲れた時など、ぽんさんがたは、獲物の解体のため
その人の家の敷地にある広い水場を使うことがあった。

ぽんさんがたは
家の人たちが起きるより前に水場を使い帰って行かれたそうだ。
使ったお礼に、肉などを包んで置いて行ってくれる。

「あそこは鬼門なんかにあたる場所じゃないから、
そういうのに使って良かったんだね」

とのこと。


昭和三十年くらいまで、
そうしたことがあったそうだ。

それはまるで古い民俗みたいだったから、
ぽんさんは、昔からの漁をする方々?と尋ねると、
そうなのだそう。

それで私が
「その人たちは漁や猟をして、奥さんがたは祈祷などをしてきた人たち?」
と聞き終わるより先に、
「そうそう」
と。

ああ、そういう話が普通に通じる。

耳で聞く生きた民俗。


ぽんさんがたのような暮らし方は、
平安時代、奈良時代まで遡ることができる。

「日本書紀の中にこういう記述があって」と
川の魚を獲る人たちが記されていることを言って、
うんと昔からほんとに最近まで
全国各地の川にそうした人たちがいたのですねーと言うと、
そうだとおっしゃっていた。



今、史料の中の古い民俗に思われるそうしたことは、
実際は数十年前まであったのだ。

その方が都市でなく山方で育ったから、
その方が子供の頃に身近にそうした民俗が残っていたのだけれども。


その方は、その数年後に東京で暮らす。

話される子供時代のこと全てが民俗の宝庫のように聞いた。

あれこれうかがった。
楽しそうにお話された。

こうしたことが遠い昔の物語でなく、
生活を成り立たす実際であることを息に感じる。


すぐそこに生きて立ち上がる。





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by moriheiku | 2011-01-09 08:00 | 歴史と旅
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