中世芸能の発生 371 今様 概略



つづき


今様。今さらながらの覚書。

参考:『完訳 日本の古典 第34巻 梁塵秘抄』


「今様」は、平安後期、十一世紀後半から約二百年ほどの間、
歌われたとみられる歌謡。

今様は今様歌の略称と考えられるが、
本来「今めかし」、つまり当世風で、華やか派手な感じを表す語だったようだ。

それまでの平安貴族の遊宴歌謡である催馬楽や風俗歌が、
しだいに固定化していったのに対し、
より新しい魅力的な歌詞と曲節を持つ歌謡を意味したのが今様だった。

『枕草子』『紫式部日記』などに、
比較的くだけた場で歌われた今様の情景が描かれる。
半面、仏像の胎内に経典でなく今様歌が納められ、
神仏への奉納に今様がされるなど、
今様には神聖な側面もあった。




今様は、文学史や歌謡史では今様歌謡とも言われる。
雑芸(ぞうげい)と呼ばれることもあるが、
歌謡以外の様々な芸能を含めて用いることも多い。

後朱雀天皇の頃、遅くとも次の後冷泉天皇の頃には、
今様といえば、新興歌謡群の総称であり、中心をなす一類として成立していたようだ。



今様には、
法文歌(ほうもんのうた)・神歌(かみうた)・長歌(ながうた)・小柳(こやなぎ)・只(ただの今様 常の今様とも)・大曲(だいごく)とされる足柄(あしがら)・黒鳥子(くろとりこ)・旧河(ふるかわ)・伊地古(いちこ)・田歌(たうた)・早歌(はやうた)・旧小柳(ふるこやなぎ)
など、系統を異にし、詞型と曲節に特有のものを持つ多くの種類があった。
(さらに詳しい分類は後日追記、、、 しないかもしれない)

今様の「今めかしさ」を求める性質上、
今様歌は時代、時節、場に応じて次々と展開していったものと考えられる。


今様は貴族から庶民まで歌ったが、伝播の中心は、
水上交通の要路に集った遊女(あそび)、
陸路の要衝を本拠とし移動もした傀儡女(くぐつめ)
社に仕え地方歩きの者もいた巫女(みこ)など。


今様歌の作者はほとんどが不明。
法文歌は仏教に詳しいこともあり、
貴族や僧侶の手になるものと見られることが多い。
全体としては謡い手でもある傀儡女、遊女、巫女の作や、民謡からの変化、
古今集などの和歌を今様にしたものなどと推察される。

今様歌はオリジナリティーを云々するものでなく、
時代や時節、場に応じて、当意即妙に変化展開する性質であったから、
今様は、今様を聞く人や、特に、今様を歌う人々にとって、
もっとも近いものに磨かれていったと思う。


今様の書き留めははほとんど歌詞のみが残っている。
『朗詠九十首抄』付載の五首などに、わずかに譜が見られる。

曲節や歌い方は推測するしかないが、
高い音域に特色があり、伝流によって声の扱いに微妙な違いがあったらしい。
たとえば只の今様は、一句を一息に歌うものだったが、
のちにのばして「ゆる」部分が多くなったという。

今様は、独唱も、何人かで声を合わせて歌われもした。
伴奏は扇拍子の他、鼓が多く用いられ、笛・笙も用いたようだ。


今様は「今めかし」さ、新しさを求めて流動・展開し、
平安期後半の長い間歌われた。
その末期が、梁塵秘抄口伝集巻第十の時代にあたる。

鎌倉時代に入ってからも歌われて、
鎌倉武士の中にも愛好した者がおり、白拍子舞や延年舞にも取り入れられたが、
しだいに流動性を失い、固定化に向かって衰微した。



・2010-12-01 中世芸能の発生 368 今様


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by moriheiku | 2010-12-06 08:00 | 歴史と旅
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