中世芸能の発生 358 扇の民俗 ケヤキ



つづき

・2010-10-03 中世芸能の発生 357 檜扇(ひおうぎ)の民俗



ケヤキ(欅、槻)の大木を見上げた。
注連(しめ)はされていない。

このよろこばしさ。

強さ、盛んさ、長い命、古さ、新しさ、すずしさ、美しさ、ざわめき、静けさ、
この木にあてはまるどのことばも、この木をあらわす一部にすぎない。


ケヤキの大樹を見上げる時、
身体を満たすのはよろこばしさ。
圧倒的なものに出会った時のような、祝福。

この木をあらわすことばは、祝福。




日本中にあるケヤキ。
ケヤキ(欅)は、古い詞章や和歌の中の槻。

ケヤキの大樹の下に立って梢を見上げると、
幹から枝へ、枝から梢へ、
梢の先に向かって青々とした葉をつけた枝が大きく広がっている。

それは扇に似てる。
はるか上に、いくつものめでたい扇が重なっている。




私は、扇は、木なんだと思う。

扇の聖性は樹木の祝福。
扇のはじまりの頃は、
広がる扇に、枝葉を広く拡げる樹木の命を、重ねて見ていたんじゃないかなって思う。



扇の異称、末広がりということばばかりが一人歩きして、
末広形からの増殖や拡大、繁栄が意識され用いられているけれど、

扇の神聖の根元には、
大きな葉広の木の、祝福の感覚だったのではないかと思う。

扇が、神の依り代(よりしろ)とされるようになったのは、
まずこうした樹木の命の横溢の実感があって、
それが宗教的に展開していったものではないかと私は思う。




翳(団扇 うちわ)は弥生時代や古墳時代の出土がある。
檜扇(ひおうぎ)同様、檜(ヒ ヒノキ 桧)の骨のものもあるそうだ。

このことから奈良時代、木簡を束ねた物が始まりとされる檜扇は、
あるいは翳よりコンパクトな、実用性を考えられたものだったかも。

しかし扇の始まりを木簡としても、
松や杉など、材料が檜に限らなかった木簡から、
少なくとも上級貴族のための扇には
「ヒ」の木、檜が選ばれて扇に作られたことは意思があり、

やはりそこには、実用だけの発想でない、
幾つかの呪的な発想や宗教的な思想の経過が重なって見える。






檜扇(ひおうぎ) 名残と変質
・2010-10-03 中世芸能の発生 357 檜扇(ひおうぎ)の民俗



枝を多く出し高く広がる槻を「百枝槻」、
木全体の葉が広がっていることを「葉広」とほめ、
・2010-02-04 中世芸能の発生 268 古代における聖性とは



祝福の系譜  ほかひ(ほかい)人  祝  寿
・2010-02-03 命の全体性
・2010-09-02 中世芸能の発生 353 ことほぎ 自然
・2010-08-30 中世芸能の発生 352 滝 木綿花
・2011-03-03 中世芸能の発生 385 石走(いはばし)る垂水(たるみ) 祝福
・2008-09-26 水波之伝
・2008-08-13 「ほ」を見る。
・2010-02-15 中世芸能の発生 296 ヨム 和歌を詠む(よむ) 芸能
・2009-07-07 中世芸能の発生 166 死と再生の物語
・2010-08-24 中世芸能の発生 346 しづやしづ しづのをだまき くりかえし

・2009-09-23 中世芸能の発生 203 狩猟 採取




・2011-08-18 中世芸能の発生 410 生命の連鎖 歌から掬(すく)いとる方々
「命っていうのは、やっぱり生き物を見ていますとね。みんなつづいていこう、つづいていこうって一所懸命生きてるなって思うんです。それはもちろん死というものもあるんですけど、なんか自分だけじゃなく、他の生き物たちも含めてつづいていってほしい、っていう、そういうことがみんなの生き物の中にこう、こもってる。」

そうした行動が、人間だったら、歌や、花を植えるとか、そういう行為で、
それが生き物としての人間の表現、

と、おっしゃって、
そういう意味でもこの歌を素晴らしい、と中村さんは思われたそうだ。

日本の信仰というか、信仰ともいえない、謂わば民俗の底には、
自然という水流がずっと続いていると私は思う。

それは個人の教祖や教義など、つけようもないもの。
体系的でも哲学的でもない、
自然の実感としかいえないようなものだ。

中世芸能が生まれるまでの、
芸能と宗教と分化していない古い日本の芸能は、
自然に寄せてヨ(イノチ)をことほぐ、祝福の系譜だ。




森と木のイノチ
・2010-08-12 森のイノチ
・2010-08-13 自然と生きること
・2010-08-02 土地本来の植生の回復 鎮守の森





ことばの神聖視 = 自然の神聖視
・2010-05-17 中世芸能の発生 312 ことばの神聖視
・2010-05-18 中世芸能の発生 313 やまとことば

・2010-03-04 中世芸能の発生 291 サチ 弓矢 狩人 開山伝承
・2010-03-05 中世芸能の発生 292 海幸山幸(ウミサチヤマサチ) ことばの音




忘れられた神聖
・2010-08-15 中世芸能の発生 337 綾 玉葛 水流
・2010-06-18 中世芸能の発生 327 ことば 倭文 薬 捨身 自然のイノチとの一体化





自然と身体  その感触は、目や耳や肌で組み立てる世界の底
・2010-07-01 ぜんぜん論理的じゃないこと
・2010-08-16 中世芸能の発生 338 メモ


・2008-06-03 自然と我 06
・2008-06-01 自然と我 04 古代の信仰
・2008-07-10 神仏習合思想と天台本覚論 01
・2010-06-21 中世芸能の発生 330 主客の分かれないところ 宗教の原型


・2009-08-30 地続き

・2010-09-21 身体感覚 感情の偏重




植生と宗教の転換期
・2005-12-20 森について 古代の転換期
・2008-10-26 樹木と信仰 03 植生と文化の分岐



お相撲の横綱の神聖性とは
・2010-09-24 中世芸能の発生 356 横綱と神木



木簡の展開の面白さ  木簡から楽器への展開  木簡の神聖
・2009-05-01 中世芸能の発生 122 ささら




木(キ)
・2011-09-05 中世芸能の発生 412 キ(木) 毛(ケ) キ・ケ(気)
・2011-09-06 中世芸能の発生 413 ことばと植物




桧扇の民俗
・2010-10-03 中世芸能の発生 357 檜扇(ひおうぎ)の民俗
・2010-10-13 中世芸能の発生 359 衵(あこめ)扇 信仰の変質と権力
・2010-10-14 中世芸能の発生 360 お雛様の檜扇
・2010-10-15 中世芸能の発生 361 武官と木簡と檜扇
・2011-04-10 中世芸能の発生 386 ヒノキ


・2011-05-19 中世芸能の発生 390 檜(ヒ ヒノキ 桧)
・2011-06-02 中世芸能の発生 392 檜を使ってきた歴史 狂奔
・2011-06-03 中世芸能の発生 393 檜と日本文化



・2011-01-27 中世芸能の発生 379 根元

・2011-03-29 自然と人 わざわいもなぐさめも



・2011-10-03 中世芸能の発生 417 杖の民俗
・2011-10-07 中世芸能の発生 420 一本の棒

・2010-04-07 中世芸能の発生 302 一刀彫


・2011-10-04 中世芸能の発生 418 意味の変遷
・2011-01-27 中世芸能の発生 379 根元



・2010-05-05 中世芸能の発生 304 仏塔 心柱 刹柱
・2010-03-16 中世芸能の発生 297 土地の木




つづく
by moriheiku | 2010-10-12 08:00 | 歴史と旅
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