つづき 倭文(しづ)織は古来の織物。 万葉人にとって、倭文(しつ しづ しず 倭文織)は、 神聖なものであり、同時に前時代の古いものだった。 万葉集歌中に登場する倭文の用例は、概ね三種類。 ・神聖なものとして用いられる例、 ・古い、つまらないものとして用いられる例、 ・神聖かつ古く素朴なものとして用いられている例、 がある。 まず、万葉集歌中、倭文が 神聖さと古さの両方を表している例。 ------------------------------------------------- 巻第三 四三一 古(いにしへ)に 在(あ)りけむ人の 倭文幡(しつはた)の 帯解(おびと)きかへて 伏屋(ふせや)立て 妻問(つまど)ひしけむ 葛飾(かつしか)の 真間(まま)の手児名(てこな)が 奥(おく)つ城(き)を こことは聞けど 真木(まき)の葉や 茂(しげ)りたるらむ 松の根や 道に久しき 言(こと)のみも 名のみもわれは 忘えなくに (431) 昔いたという男が倭文織の帯を解きあい、小さな妻屋も作って愛をかわしたという、葛飾の真間の手児名の墓はこことは聞くのだけれども、真木の葉が茂ってしまったのだろうか。松の根のように遠く久しいことになったのだろうか。墓をそれと見ることはなくても、言い伝えだけでも、名前だけでも、私は忘れられぬことよ。 ・葛飾の真間の手児名(勝鹿(かづしか)の真間の娘子(をとめ)) 当時伝誦の美女として多く歌われる。 ・倭文幡(しつはた)の 倭文機織の。外来の織りに対する古来の意味で「倭文」と書く。シヅは沈む、賤、などの語、唐織の華やかな浮紋に対していったか。 ・真間は国府で、調布のための機女が召集されていたか。 ------------------------------------------------- 大昔、織女(機女)は聖性を帯びた人。国府で倭文織。 現在も機織女を祀る神社が各地に残る。 ・2010-08-19 中世芸能の発生 341 倭文(しつ しづ しず 倭文織) 真間の美しい機織りの少女はの伝説は、 昔の人にとってはただ美少女の伝説でなく、 古く素朴な神聖さのにおいの残る伝説だっただろう。 参考:中西進(著)『万葉集(一)』 ■倭文のシリーズ ・2010-08-19 中世芸能の発生 341 倭文(しつ しづ しず 倭文織) ・2010-08-21 中世芸能の発生 343 倭文(しつ) 神聖なもの ・2010-08-22 中世芸能の発生 344 倭文(しつ) つまらないもの ・2010-08-23 中世芸能の発生 345 倭文(しつ) 狭織(さおり) ・2010-08-24 中世芸能の発生 346 しづやしづ しづのをだまき くりかえし ・2010-06-22 中世芸能の発生 331 罪業感 今様 ・2009-07-28 中世芸能の発生 180 古代の女性の宗教的側面 ・2009-07-29 中世芸能の発生 181 巫女 つづく
by moriheiku
| 2010-08-20 08:00
| 歴史と旅
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