中世芸能の発生 342 倭文(しつ) 真間の手児名




つづき


倭文(しづ)織は古来の織物。

万葉人にとって、倭文(しつ しづ しず 倭文織)は、
神聖なものであり、同時に前時代の古いものだった。

万葉集歌中に登場する倭文の用例は、概ね三種類。
・神聖なものとして用いられる例、
・古い、つまらないものとして用いられる例、
・神聖かつ古く素朴なものとして用いられている例、
がある。



まず、万葉集歌中、倭文が
神聖さと古さの両方を表している例。

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巻第三 四三一
古(いにしへ)に 在(あ)りけむ人の 倭文幡(しつはた)の 帯解(おびと)きかへて 伏屋(ふせや)立て 妻問(つまど)ひしけむ 葛飾(かつしか)の 真間(まま)の手児名(てこな)が 奥(おく)つ城(き)を こことは聞けど 真木(まき)の葉や 茂(しげ)りたるらむ 松の根や 道に久しき 言(こと)のみも 名のみもわれは 忘えなくに (431)

昔いたという男が倭文織の帯を解きあい、小さな妻屋も作って愛をかわしたという、葛飾の真間の手児名の墓はこことは聞くのだけれども、真木の葉が茂ってしまったのだろうか。松の根のように遠く久しいことになったのだろうか。墓をそれと見ることはなくても、言い伝えだけでも、名前だけでも、私は忘れられぬことよ。

・葛飾の真間の手児名(勝鹿(かづしか)の真間の娘子(をとめ)) 
当時伝誦の美女として多く歌われる。

・倭文幡(しつはた)の 
倭文機織の。外来の織りに対する古来の意味で「倭文」と書く。シヅは沈む、賤、などの語、唐織の華やかな浮紋に対していったか。

・真間は国府で、調布のための機女が召集されていたか。
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大昔、織女(機女)は聖性を帯びた人。国府で倭文織。
現在も機織女を祀る神社が各地に残る。
・2010-08-19 中世芸能の発生 341 倭文(しつ しづ しず 倭文織)


真間の美しい機織りの少女はの伝説は、
昔の人にとってはただ美少女の伝説でなく、
古く素朴な神聖さのにおいの残る伝説だっただろう。


参考:中西進(著)『万葉集(一)』



■倭文のシリーズ
・2010-08-19 中世芸能の発生 341 倭文(しつ しづ しず 倭文織)
・2010-08-21 中世芸能の発生 343 倭文(しつ) 神聖なもの
・2010-08-22 中世芸能の発生 344 倭文(しつ) つまらないもの
・2010-08-23 中世芸能の発生 345 倭文(しつ) 狭織(さおり)
・2010-08-24 中世芸能の発生 346 しづやしづ しづのをだまき くりかえし





・2010-06-22 中世芸能の発生 331 罪業感 今様

・2009-07-28 中世芸能の発生 180 古代の女性の宗教的側面
・2009-07-29 中世芸能の発生 181 巫女




つづく
by moriheiku | 2010-08-20 08:00 | 歴史と旅
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