中世芸能の発生 301 歌の音 



つづき


言語学者の家に生まれて現在言語を仕事にされている方が、
以前万葉集の歌について、テレビで話しをしていた。

感情などのアナログなものが、言葉というデジタルなものに置き換えられ、
そのデジタルな言葉によって現在の我々に、
昔の人の感情や情景などが伝わることに感慨を覚える、

というようなことをおっしゃっていた。


何を言ってるんだ、と思った。


そんなら色や音はデジタルか。


究極的には、人の感情や色や音、自然の森羅万象、
全ての現象は数値化できるのかもしれない。
その意味ならことばもデジタルなもの。

けどこの方は、
そういう意味でことばをデジタルなものと言っているのじゃない。

単語や動詞の並びや組み合わせなどによって情報を論理的に処理するものとして、
ことばをデジタルなものと言ってるみたい。




私は、言葉は、一見意味を持たない声の音、ことばの音も、
それがそのものや心に合ったことばの音や色をしているのであれば、
それは充分意味を表すことばであると思う。

私は、ことばの発生はそいういうところにあると思うから。


それらを組み合わせることで、
複雑な構成を持った情報伝達用のことばの世界はでき、
発達したと思ってるのだった。

ことばの世界は多様、
ことばをデジタルなものとして用いるジャンルもあるけど。

しかしそれはことばの全てじゃない。ことばの本質じゃない。


特に歌(和歌)は。

古い歌は。




歌は、ことばの組み合わせで知らされる意味や出来事に、
その歌の本質があるのでない。

歌の、ことばの音、ことばの色や、その肌合いに、
その歌の本質が立って
読む人はそこを感じるんだ。


古い歌などつらつら見ていると、
現代語や他の語に置き換えることのできることばの意味があらわすものより、
ことばの音に多くを感じる。

古い歌のことばの響きに感得されるもの。

昔の人がことばの音調を重視したことに感じ入る。

原文の響きに立ちあがる気分、意味と質感は、
訳文で失われがちなもの。



現代語訳では省かれることのある枕詞や接頭語などは、
七五調の語調を整えるためというより、
その枕することばと歌の本質を匂い立たせるためのものだっただろうし、

ことばとことばを扱う人が神聖とされた歴史があったのは、
ものと、ものをあらわすことばの本質が分かち難く、
そのものの性質と一体化していたからだったと思う。

ことばはことばの組み合わせで間接的にものごとをあらわすものでなく、
ことばは直接そのものの本質をあらわす。
ことばはそのもの自身。

和歌の芯は、そういうところに結びついているんじゃないかなー。

古い和歌はそういうところを尊重されたのだと思う。



私はことばを、
音や色や匂いのように、自然の事象や動物植物のように、
有機的にとらえいたのだなあ。

とことん論理的でなくて。





世の中にはことばに対して豊かな感受性を持った人たちが居て、
そういう方々のことばは、平易でも深く通じて、私はいつも感嘆する。
そのことばを聞けることはよろこび。
まっすぐに心の芯に入る。



それにしても、
その言語学者の家に生まれて現在言語を仕事にされている方は、
なぜことばをお仕事にされているのかしら。

こういう人が、歌の何を言うのだろう。

歌を語る中心に歌の周辺を語られるけれど、
馴染まない。だって



その人のことばの音は、虚勢のにおいがする。


本当のことばを言っていない。




ああ私は論理性ゼロ。






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by moriheiku | 2010-04-04 08:00 | 歴史と旅
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