つづき ケヤキ(欅、槻) カシ(樫、橿) ブナ シイ(椎) ナラ(楢) カツラ(楓、桂) スギ(杉) サカキ(榊)の類 ツバキ(椿) 他。 めずらしい木でなく、一般的な木。古くから自生している木。 神話や古い歌や詞章に、 これら土地に多く生えて、立派に繁る木が讃えられている。 そのことだけでも、昔の人の、 命が盛んなことへのあこがれを感じる。 命が盛んなことが何よりも重視されていたことがわかる。 それは物(木)への崇拝でなく、 物(木)に宿っている命の力への崇拝だ。 ・「イ」ノ「チ」 ・2010-02-11 中世芸能の発生 274 イノチ ユリの花 一般的な木、土地の木は、強く育つ。多く繁殖する。 そのことにめでたさを見ていたと思う。 古来神聖とされた木ひとつを取り上げても、 その底に、これまでもこれからもつづく生命力の盛んさへのあこがれと、 土地の自然がある。 日本の信仰を語る時、なぜそのことへほとんど言及されないのだろう。 とても不思議。 現代の人々もよく、 生き生きした食べ物や森林浴が好きだと口に出すが。 信仰のはじまりとはまったく切り離して考えられているようだ。 土地の木。土地の植生。 その土地に根付いてきた強いもの。 その繁栄。 その盛んなことが称えられていたこと。 これはめずらしい木を何よりも珍重し、あがめるような性質のものでない。 このことは芸能についても同じと思う。 そのめでたさの根本にあるものは、 めずらしい貴重な玉を珍重するようなものでなく、 広く土地の人々の血肉から生まれてきたもの。 多くの人々の生を土壌としたもの、 だった、と思う。 ・2010-02-04 中世芸能の発生 268 古代における聖性とは ・2013-02-06 日本の命の概念 日本の古来の命の考え方は、 大陸から入ってきた命の考え方とは違う。 大陸的な考え方では、命はもっぱら動物、また植物の生命のことを指す。 (今は日本人にもこれに近い考え方だろうか。) 古来の日本の命は、 その生命力、圧倒的な力、横溢するエネルギーのことを、命と感じていた。 したがって昔の日本では、山にも岩にも命がある。 滝も水の流れも、風も、命そのものだ。 光も、音も。何かの中におこる力や性質自体も。 ごく古い時代の日本のこうしたイノチの感覚がやがて、 日本における精霊やタマの概念になり、日本における神の概念になり、 仏教が入ってからは民俗信仰と習合した仏の概念になっていった。 かつて命はエネルギーのようなものに概念されていたので、 古い時代の日本では、命の概念で生物と無生物は分かれない。 したがって日本では、 森羅万象に命があり、森羅万象に神が宿り、 岩にも木にも仏がいるという理解になっていった。 日本の信仰の流れ。 ・2010-02-11 中世芸能の発生 274 イノチ ユリの花 ・2010-03-04 中世芸能の発生 291 サチ 弓矢 狩人 開山伝承 ・2009-12-17 中世芸能の発生 267 一つ松 声の清きは ・2010-03-04 中世芸能の発生 291 サチ 弓矢 狩人 開山伝承 ・2010-03-05 中世芸能の発生 292 海幸山幸(ウミサチヤマサチ) ことばの音 ・2010-02-12 中世芸能の発生 293 ヨ ・2010-02-13 中世芸能の発生 294 よごと 寿詞 ・2010-02-14 中世芸能の発生 295 奄美のユミグトゥ(ヨミゴト) ・2010-02-15 中世芸能の発生 296 ヨム 和歌を詠む(よむ) 芸能 ・2009-12-06 中世芸能の発生 258 マナ 原始宗教 ・2009-12-08 中世芸能の発生 260 呪術・宗教と身体感覚 ・2010-05-14 中世芸能の発生 309 はやし はやす ・2007-04-18 はやし ・2009-12-10 中世芸能の発生 262 はやし 分霊 ・2009-12-09 中世芸能の発生 261 たまふり たましづめ 鎮魂 ・2009-09-30 中世芸能の発生 207 里神楽 ・2007-10-18 鈴と種 ・2009-08-19 風土 ・2009-05-25 中世芸能の発生 133 俗の土壌 ・2009-09-24 中世芸能の発生 204 民俗芸能 ・2009-11-18 中世芸能の発生 244 山の意味の変遷 ・2010-04-07 中世芸能の発生 302 一刀彫 ・2010-04-08 中世芸能の発生 303 日本料理 湯屋 湯聖(ひじり) ・2010-05-05 中世芸能の発生 304 仏塔 心柱 刹柱 ・2010-05-20 中世芸能の発生 315 仏教と和歌の習合 ・2010-05-21 中世芸能の発生 316 今様即仏道 芸能者と仏教 ・2010-06-18 中世芸能の発生 327 ことば 倭文 薬 捨身 自然のイノチとの一体化 ・ 2010-08-15 中世芸能の発生 337 綾 玉葛 水流 ・2010-08-13 自然と生きること ・2010-08-12 森のイノチ ・2010-02-03 命の全体性 ・2011-03-15 自然 土地の木 環境問題 ・2010-08-04 中世芸能の発生 330 中世芸能の発生 336 比叡山延暦寺の植樹 ・2010-08-02 土地本来の植生の回復 鎮守の森 ・2011-03-17 森林と国土 木(キ) ・2011-09-05 中世芸能の発生 412 キ(木) 毛(ケ) キ・ケ(気) ・2011-09-06 中世芸能の発生 413 ことばと植物 扇 木の神聖性と、神聖の意味の変質 ・2010-10-12 中世芸能の発生 358 扇の民俗 ケヤキ ・2010-10-03 中世芸能の発生 357 檜扇(ひおうぎ)の民俗 ・2011-04-10 中世芸能の発生 386 ヒノキ ・2011-06-19 中世芸能の発生 400 遊び 神楽 類から個へ 類感の原始的呪術的な信仰から、救済の哲学のある宗教への移行 ・2011-07-20 中世芸能の発生 401 個の意識と宗教 ・2009-12-11 中世芸能の発生 263 ほうほう蛍 まじないのことば 万葉集歌 ・2011-08-18 中世芸能の発生 410 生命の連鎖 歌から掬(すく)いとる方々 「命っていうのは、やっぱり生き物を見ていますとね。みんなつづいていこう、つづいていこうって一所懸命生きてるなって思うんです。それはもちろん死というものもあるんですけど、なんか自分だけじゃなく、他の生き物たちも含めてつづいていってほしい、っていう、そういうことがみんなの生き物の中にこう、こもってる。」 そうした行動が、人間だったら、歌や、花を植えるとか、そういう行為で、 それが生き物としての人間の表現、 と、おっしゃって、 そういう意味でもこの歌を素晴らしい、と中村さんは思われたそうだ。 日本の信仰というか、信仰ともいえない、謂わば民俗の底には、 自然という水流がずっと続いていると私は思う。 それは個人の教祖や教義など、つけようもないもの。 体系的でも哲学的でもない、 自然の実感としかいえないようなものだ。 中世芸能が生まれるまでの、 芸能と宗教と分化していない古い日本の芸能は、 自然に寄せてヨ(イノチ)をことほぐ、祝福の系譜だ。 つづく
by moriheiku
| 2010-03-16 08:00
| 歴史と旅
|
ファン申請 |
||