中世芸能の発生 297 土地の木



つづき


ケヤキ(欅、槻) カシ(樫、橿) ブナ シイ(椎) ナラ(楢) カツラ(楓、桂) スギ(杉) サカキ(榊)の類 ツバキ(椿) 他。 

めずらしい木でなく、一般的な木。古くから自生している木。


神話や古い歌や詞章に、
これら土地に多く生えて、立派に繁る木が讃えられている。


そのことだけでも、昔の人の、
命が盛んなことへのあこがれを感じる。


命が盛んなことが何よりも重視されていたことがわかる。



それは物(木)への崇拝でなく、
物(木)に宿っている命の力への崇拝だ。
・「イ」ノ「チ」
・2010-02-11  中世芸能の発生 274 イノチ ユリの花




一般的な木、土地の木は、強く育つ。多く繁殖する。

そのことにめでたさを見ていたと思う。






古来神聖とされた木ひとつを取り上げても、
その底に、これまでもこれからもつづく生命力の盛んさへのあこがれと、
土地の自然がある。


日本の信仰を語る時、なぜそのことへほとんど言及されないのだろう。
とても不思議。


現代の人々もよく、
生き生きした食べ物や森林浴が好きだと口に出すが。
信仰のはじまりとはまったく切り離して考えられているようだ。




土地の木。土地の植生。
その土地に根付いてきた強いもの。
その繁栄。

その盛んなことが称えられていたこと。

これはめずらしい木を何よりも珍重し、あがめるような性質のものでない。





このことは芸能についても同じと思う。

そのめでたさの根本にあるものは、
めずらしい貴重な玉を珍重するようなものでなく、
広く土地の人々の血肉から生まれてきたもの。
多くの人々の生を土壌としたもの、
だった、と思う。






・2010-02-04 中世芸能の発生 268 古代における聖性とは



・2013-02-06 日本の命の概念
日本の古来の命の考え方は、
大陸から入ってきた命の考え方とは違う。

大陸的な考え方では、命はもっぱら動物、また植物の生命のことを指す。
(今は日本人にもこれに近い考え方だろうか。)

古来の日本の命は、
その生命力、圧倒的な力、横溢するエネルギーのことを、命と感じていた。

したがって昔の日本では、山にも岩にも命がある。
滝も水の流れも、風も、命そのものだ。
光も、音も。何かの中におこる力や性質自体も。


ごく古い時代の日本のこうしたイノチの感覚がやがて、
日本における精霊やタマの概念になり、日本における神の概念になり、
仏教が入ってからは民俗信仰と習合した仏の概念になっていった。

かつて命はエネルギーのようなものに概念されていたので、
古い時代の日本では、命の概念で生物と無生物は分かれない。

したがって日本では、
森羅万象に命があり、森羅万象に神が宿り、
岩にも木にも仏がいるという理解になっていった。
日本の信仰の流れ。



・2010-02-11  中世芸能の発生 274 イノチ ユリの花
・2010-03-04 中世芸能の発生 291 サチ 弓矢 狩人 開山伝承
・2009-12-17 中世芸能の発生 267 一つ松 声の清きは



・2010-03-04 中世芸能の発生 291 サチ 弓矢 狩人 開山伝承
・2010-03-05 中世芸能の発生 292 海幸山幸(ウミサチヤマサチ) ことばの音



・2010-02-12 中世芸能の発生 293 ヨ
・2010-02-13 中世芸能の発生 294 よごと 寿詞
・2010-02-14 中世芸能の発生 295 奄美のユミグトゥ(ヨミゴト)
・2010-02-15 中世芸能の発生 296 ヨム 和歌を詠む(よむ) 芸能



・2009-12-06 中世芸能の発生 258 マナ 原始宗教
・2009-12-08 中世芸能の発生 260 呪術・宗教と身体感覚

・2010-05-14 中世芸能の発生 309 はやし はやす
・2007-04-18 はやし
・2009-12-10 中世芸能の発生 262 はやし 分霊



・2009-12-09 中世芸能の発生 261 たまふり たましづめ 鎮魂
・2009-09-30 中世芸能の発生 207 里神楽



・2007-10-18 鈴と種

・2009-08-19 風土




・2009-05-25 中世芸能の発生 133 俗の土壌
・2009-09-24 中世芸能の発生 204 民俗芸能
・2009-11-18 中世芸能の発生 244 山の意味の変遷


・2010-04-07 中世芸能の発生 302 一刀彫


・2010-04-08 中世芸能の発生 303 日本料理 湯屋 湯聖(ひじり)
・2010-05-05 中世芸能の発生 304 仏塔 心柱 刹柱


・2010-05-20 中世芸能の発生 315 仏教と和歌の習合
・2010-05-21 中世芸能の発生 316 今様即仏道 芸能者と仏教



・2010-06-18 中世芸能の発生 327 ことば 倭文 薬 捨身 自然のイノチとの一体化


・ 2010-08-15 中世芸能の発生 337 綾 玉葛 水流



・2010-08-13 自然と生きること
・2010-08-12 森のイノチ
・2010-02-03 命の全体性
・2011-03-15 自然




土地の木 環境問題
・2010-08-04 中世芸能の発生 330 中世芸能の発生 336 比叡山延暦寺の植樹
・2010-08-02 土地本来の植生の回復 鎮守の森
・2011-03-17 森林と国土





木(キ)
・2011-09-05 中世芸能の発生 412 キ(木) 毛(ケ) キ・ケ(気)
・2011-09-06 中世芸能の発生 413 ことばと植物




扇 木の神聖性と、神聖の意味の変質
・2010-10-12 中世芸能の発生 358 扇の民俗 ケヤキ
・2010-10-03 中世芸能の発生 357 檜扇(ひおうぎ)の民俗
・2011-04-10 中世芸能の発生 386 ヒノキ




・2011-06-19 中世芸能の発生 400 遊び 神楽



類から個へ  類感の原始的呪術的な信仰から、救済の哲学のある宗教への移行
・2011-07-20 中世芸能の発生 401 個の意識と宗教
・2009-12-11 中世芸能の発生 263 ほうほう蛍 まじないのことば





万葉集歌
・2011-08-18 中世芸能の発生 410 生命の連鎖 歌から掬(すく)いとる方々
「命っていうのは、やっぱり生き物を見ていますとね。みんなつづいていこう、つづいていこうって一所懸命生きてるなって思うんです。それはもちろん死というものもあるんですけど、なんか自分だけじゃなく、他の生き物たちも含めてつづいていってほしい、っていう、そういうことがみんなの生き物の中にこう、こもってる。」

そうした行動が、人間だったら、歌や、花を植えるとか、そういう行為で、
それが生き物としての人間の表現、

と、おっしゃって、
そういう意味でもこの歌を素晴らしい、と中村さんは思われたそうだ。

日本の信仰というか、信仰ともいえない、謂わば民俗の底には、
自然という水流がずっと続いていると私は思う。

それは個人の教祖や教義など、つけようもないもの。
体系的でも哲学的でもない、
自然の実感としかいえないようなものだ。

中世芸能が生まれるまでの、
芸能と宗教と分化していない古い日本の芸能は、
自然に寄せてヨ(イノチ)をことほぐ、祝福の系譜だ。



つづく
by moriheiku | 2010-03-16 08:00 | 歴史と旅
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