中世芸能の発生 296 ヨム 和歌を詠む(よむ) 芸能



つづき


呪(まじな)い・呪術としての発達はあるものの、
このユミグトゥ(ヨミゴト)の底に残っているような、
まるで祈り以前の祈りのような、まだ素朴な行為は、

ひとつ発達して、例えば記紀の説話で弘計(をけ)王の兄弟がした
「室寿(むろほぎ)」の「寿詞(よごと)」のような形になったようだ。


「室寿(むろほぎ)」は、柱や棟、梁など家を構成する部材に寄せて、
家君の精神や生命の強いことと豊穣を予祝するもの。

こうした予祝行為のうち、
めでたい言葉(よごと 寿詞)を並べることばに限定したものを
「言寿(ことほ)ぎ」と言った。
ことほぎ。言祝(ことほ)ぎ。


先にあげた『出雲国造神賀詞(かむよごと)』は、
ことばによる寿詞(よごと)の整った姿、完成した姿と考えることができる。





「よ」 ということば。
世 代 夜 黄泉(よみ) 常世(とこよ) 詠む(よむ) 寿詞(よごと) 暦(こよみ) 他・・

「よ」の音に感じられるのは「時」。

ただ「時間」のことでなく、
命とむすびついている「時」の感じ。


古い和歌や詞章に使われた「よ」には、
営々と栄えつづける時のイメージが重なっている。

ずいぶん昔の「よ」は、
現代のように時刻や、刻々と刻まれる時間でない。

繰りかえし再生しつづける
永遠の時のイメージで、

それは「命」のことだ。

・2010-02-12 中世芸能の発生 293 ヨ ヨミ トコヨ ヨム ヨゴト コヨミ




“ イハフ(祝)と似た言葉に「ホク」「コトホク」(寿ぐ)という語があるが、後者はめでたい言葉を並べ立てて、首長を予祝することであり、同じ予祝であっても、言葉の面に限定されているという違いがある。このような「言寿(ことほ)ぎ」を生活の手段にしているのが「ホカヒ人」で(『名義抄』には「乞索児」にホカヒヒトの訓が見える)、多くの場合権門勢家の門に立って祝言を並べ立て、いくらかの謝礼を貰って生活している下級芸能者であり、『万葉集』には「乞食者」と表記する。”
土橋寛『日本語に探る古代信仰』


折口信夫
“寿詞(よごと)を唱へる事を「ほぐ」と言ふ。「ほむ」と言ふのも、同じ語原で、用語例を一つにする語である。「ほむ」は今日、唯の讃美の意にとれるが、予め祝福して、出来るだけよい状態を述べる処から転じて、讃美の義を分化する様になつたのである。”
“たんに現状の賛美でない。「ほむ」・「ほぐ」という語は予祝する意味の語で、未来に対する賞賛である。”
・2008-08-13 「ほ」を見る。




現代にも、
数を数えることを、数をよむと言うことがある。

土橋寛は、数を数えることを「ヨム」といったことについて、
今も奈良の石上神宮で十一月に行われる物部氏のタマフリのように、
十種の神宝をゆらゆらと振りながら
「一二三四……十」と数えることを何度も繰返すような呪法に由来していると考える。
・2009-12-09 中世芸能の発生 261 たまふり たましづめ 鎮魂
・2009-08-01 中世芸能の発生 182 芸能の始め




また、和歌を作ることを「ヨム」というのは、
「ヨム」という動詞は「寿ぐ」と同じ意味の語であり、

和歌の根源ないし代表が、
「ヨミ歌」(祝歌)であったことに基づいていると述べる。




古代の歌にある性質、祈りのようなものを感じる時、私は、

和歌の根源、ないしは和歌の代表が
生命をほぐ「ヨミ歌」(祝歌)であったということは、まことと思う。




宗教性を帯びた白拍子や遊女たちがすぐれた和歌詠みであったこと、
古い僧や山伏が修行に和歌を詠んだこと、
御詠歌が和歌の形式で作られたこと、

多くの説話に和歌の徳が述べられていること、
紀貫之が古今和歌集に、和歌は、
天地をうごかし目に見えぬ鬼神をもあはれとおもはせ(仮名序)
と書きつけたこと、
お能で、詠まれた和歌が神仏を悦ばせ、また和歌によって亡者の魂が成仏すること。




中世の世阿弥が
申楽(さるがく)の始めは天の岩戸の前で行った神楽に始まると書いた。



芸能者と和歌は、

古い芸能者が魂を揺り動かして再生させる、
タマフリする古い信仰の流れにある宗教者であったことと、

「ヨ」永遠の命の栄えを「ヨム」人々であったことにおいて一致する。



中世までの芸能者に、
自覚されていたと思う。







生と死をくりかえしくりかえしつづいていく 自然 祝福 
・2011-02-16 中世芸能の発生 380 輪廻 遷宮 遷都
・2010-08-24 中世芸能の発生 346 しづやしづ しづのをだまき くりかえし
・2011-03-15 自然
・2011-02-16 君が代 02
・2009-12-17 中世芸能の発生 267 一つ松 声の清きは




■芸能者の役割  ヨム人々 ホグ人々 芸能 ヨゴト 命の再生  
・2010-02-15 中世芸能の発生 296 ヨム 和歌を詠む(よむ) 芸能
・2009-12-09 中世芸能の発生 261 たまふり たましづめ 鎮魂
・2011-06-19 中世芸能の発生 400 遊び 神楽



■芸能の役割  後世(中世)の芸能にもまだ描かれる、死と再生の物語   
・2009-07-07 中世芸能の発生 166 死と再生の物語



狩猟。栽培とは違う、くりかえす自然のイノチのチカラめでたさを得る。
・2009-09-23 中世芸能の発生 203 狩猟 採取
・2009-09-06 毎年に鮎し走らば




・2010-02-03 命の全体性



類感 素朴な呪術と祈り
・2009-12-13 中世芸能の発生 265 田児(たご 田子)の浦ゆ
・2009-12-11 中世芸能の発生 263 ほうほう蛍 まじないのことば




ほぐ 祝ぐ 寿ぐ
・2008-08-13 「ほ」を見る。
・2012-02-16 中世芸能の発生 428 「ホ」 穂(ほ) 寿(ほ)ぐ 誉(ほ)む 言祝ぎ(ことほぎ)




和歌の徳
・2008-07-30 芸能の発生 古代~中世 06 和歌と祝詞 蟻通
・2009-12-16 中世芸能の発生 266 得たらん人にこそあれ
・2009-04-13 和歌の徳 ものくさたろうの物語






遊女と白拍子と巫女と和歌  すぐれた歌詠み、経詠み
・2009-03-04 中世芸能の発生 81 歌占
・2009-07-28 中世芸能の発生 180 古代の女性の宗教的側面
・2009-07-29 中世芸能の発生 181 巫女


・2009-02-08 中世芸能の発生 64 今様を謡う人
・2009-02-09 中世芸能の発生 65 万葉の遊行婦女
・2009-02-10 中世芸能の発生 66 遊女の転落
・2009-02-11 中世芸能の発生 67 船の上の遊女 お能『江口』
・2009-02-13 中世芸能の発生 69 遊女と女房文学
・2009-03-03 中世芸能の発生 80 比丘尼と椿
・2009-03-10 中世芸能の発生 86 歌合の女房名


・2009-07-27 中世芸能の発生 179 遊部
・2009-07-29 中世芸能の発生 181 巫女
・2009-08-01 中世芸能の発生 182 芸能の始め
・2009-08-02 中世芸能の発生 183 女系 妻帯




山伏の作歌
・2009-07-13 中世芸能の発生 172 山伏の作歌、作仏
・2009-08-17 中世芸能の発生 188 作仏聖 円空 棟方志功
・2008-12-16 本来空
・2009-04-21 中世芸能の発生 115  西行の歌道




紀貫之 仮名序
2008/02/01 「仮名序」カナを使う意味
2008/02/01 「仮名序」和歌の背骨
2008/02/01 「仮名序」あめつちの




和歌とよごと
・2008/07/28 芸能の発生 古代~中世 03 和歌とよごと
・2008/07/29 芸能の発生 古代~中世 04 和歌と祝詞
・2008/07/29 芸能の発生 古代~中世 05 和歌 祈から感情へ
・2008/07/28 芸能の発生 古代~中世 02 ことわざと歌
・2009-12-12 中世芸能の発生 264 いや重(し)け吉事(よごと)





「ヨ」のシリーズ
・2010-02-12 中世芸能の発生 293 ヨ ヨミ トコヨ ヨム ヨゴト コヨミ
・2010-02-13 中世芸能の発生 294 よごと 寿詞
・2010-02-14 中世芸能の発生 295 奄美のユミグトゥ(ヨミゴト)



・2009-08-15 中世芸能の発生 186 朗詠調

・2009-03-26 中世芸能の発生 93 歌の展開

・2010-02-21 中世芸能の発生 288 自然 身体 実感

・2009-03-01 草の息

・2009-08-16 中世芸能の発生 187 和琴


・2010-04-01 中世芸能の発生 298 言語の幹や根 芸術言語論
・2010-04-02 中世芸能の発生 299 ことばの発生と本質
・2010-04-03 中世芸能の発生 300 俳優(わざおぎ) 神態(かみぶり) 流浪する芸能者
・2010-04-04 中世芸能の発生 301 歌の音



・2010-05-20 中世芸能の発生 315 仏教と和歌の習合
・2010-05-21 中世芸能の発生 316 今様即仏道 芸能者と仏教
・2010-12-12 中世芸能の発生 376 遊びをせんとや生まれけむ




・2010-06-18 中世芸能の発生 327 ことば 倭文 薬 捨身 自然のイノチとの一体化



自然 祝福 和歌
・2011-03-03 中世芸能の発生 385 石走(いはばし)る垂水(たるみ) 祝福
・2010-09-02 中世芸能の発生 353 ことほぎ 自然
・2010-08-30 中世芸能の発生 352 滝 木綿花



・2011-01-27 中世芸能の発生 379 根元




■芸能の始まり アメノウズメノミコト 天の岩屋 神楽 
・2009-08-01 中世芸能の発生 182 芸能の始め
・2011-06-19 中世芸能の発生 400 遊び 神楽
・2011-09-01 中世芸能の発生 411 こもる こもりく 参籠 たたなづく青垣





・2011-08-18 中世芸能の発生 410 生命の連鎖 歌から掬(すく)いとる方々
「命っていうのは、やっぱり生き物を見ていますとね。みんなつづいていこう、つづいていこうって一所懸命生きてるなって思うんです。それはもちろん死というものもあるんですけど、なんか自分だけじゃなく、他の生き物たちも含めてつづいていってほしい、っていう、そういうことがみんなの生き物の中にこう、こもってる。」

そうした行動が、人間だったら、歌や、花を植えるとか、そういう行為で、
それが生き物としての人間の表現、

と、おっしゃって、
そういう意味でもこの歌を素晴らしい、と中村さんは思われたそうだ。

日本の信仰というか、信仰ともいえない、謂わば民俗の底には、
自然という水流がずっと続いていると私は思う。

それは個人の教祖や教義など、つけようもないもの。
体系的でも哲学的でもない、
自然の実感としかいえないようなものだ。

中世芸能が生まれるまでの、
芸能と宗教と分化していない古い日本の芸能は、
自然に寄せてヨ(イノチ)をことほぐ、祝福の系譜だ。



つづく
by moriheiku | 2010-03-15 08:00 | 歴史と旅
<< 中世芸能の発生 297 土地の木 中世芸能の発生 295 奄美の... >>