中世芸能の発生 291 サチ 弓矢 狩人 開山伝承



つづき


以上、万葉集歌にも見られるように、

獲物(さち 幸)をとる矢を「さつや」、
獲物をとる人を「さつを」と言った。

万葉以前は、獲物はさち、幸(さち)であった。


神話のうみさちひこ(海幸彦)、やまさちひこ(山幸彦)。


「サチ」は、「サ・チ」。


「サ・チ」の「サ」は、
神聖なものにつく接頭語。
・2009-11-08 中世芸能の発生 239 さぶるこころさまねし


「サ・チ」の「チ」について。
イノチは生命を意味し、語源的には生命力。
「イノチ」の「イ」は生命、「チ」はチカラ(力)。
「サ・チ」の「チ」は、イノチのチカラ。
・2010-02-11  中世芸能の発生 274 イノチ ユリの花


「サチ」は、神聖な生命力にあふれた力。


転じて神聖な生命力に満ちているものを指す。
山海に産するもの。野生の獲物も。

「サチ」を獲る者は、「サチ」を得る者。「サチ」に連なる者。

・2009-09-23 中世芸能の発生 203 狩猟 採取
・2010-02-04 中世芸能の発生 268 古代における聖性とは



現在も見る弓矢の帯びる聖性は、
狩猟がサチを得るものだったことからきている。


弓矢の神聖性は、野生の生命力につながっている。

だから、どんなに破壊力が大きくても、
原子爆弾は信仰の対象にならない。




白山や熊野、高野山、他、各地の寺院開山の縁起に、
土地の狩人がその場所を知り、
聖者(僧)を案内したという伝承が数多くある。

その狩人たちは、古来の民俗信仰の、
霊地を見つけ、そこの山の神の元でサチに連なっていた人々を指し、

開山伝説には
原始的な自然信仰の色濃い民俗信仰に
仏教が重なっていく経緯が表されていると思う。




・2009-09-23 中世芸能の発生 203 狩猟 採取

・2010-02-04 中世芸能の発生 268 古代における聖性とは

・2010-02-11 中世芸能の発生 274 イノチ ユリの花

・2010-03-16 中世芸能の発生 297 土地の木

・2009-08-17 中世芸能の発生 188 作仏聖 円空 棟方志功

・2010-04-08 中世芸能の発生 303 日本料理 湯屋 湯聖(ひじり)

・2010-05-05 中世芸能の発生 304 仏塔 心柱 刹柱




狩りという行為の神聖 出土品に描かれた狩り
・2013-02-07 中世芸能の発生 451 『ぼくは猟師になった』 殺生 肉食 イオマンテ
祭祀に用いられた道具や古墳に描かれたモチーフを見ると、
旺盛な命の獲物だけが神聖なのでなく、
狩りという行為自体が、(上記の意味での)神聖な行為だったことがうかがえる。

狩りは縄文時代から主要に描かれたてきたもののひとつだが、
狩に関わるモチーフとして、
獲物となる旺盛な野生してのシカ、イノシシ、魚だけでなく、
弓矢や狩人も描かれていることにはやはり意味がある。

五月の節句でもおなじみの、弓矢は今でも魔除けの印。

中世期あたりまでの武士が、
後世に武士の魂と言われるようになった刀よりも弓箭(弓矢)を重視し、
その頃、武士の生き方が弓箭の道と言われていたことは、

当時実戦において刀より弓矢が有利だったからというだけでなく、
遠い時代、狩りという行為自体にあった、
たけだけしいほど盛んな生命力と対面する神聖の記憶が、
その頃までまだかろうじて保たれていたということもあったのではないだろうか。

古来の思想と、
古い思想に新しい仏教思想が重なっていく過程。



狩猟肉食にみる、
古来の思想と、新しい仏教思想の狭間のきしみについて。
・2013-02-07 中世芸能の発生 451 『ぼくは猟師になった』 殺生 肉食 イオマンテ
『ぼくは猟師になった』についてと、
説話集、今様歌、猿楽能など、古典や史料の中に見る、
日本の古来の肉食と、
新しく入ってきた仏教思想の殺生肉食の戒の狭間のきしみについて。



・2009-04-20 中世芸能の発生 114 中世人にとっての故実
・2009-04-16 中世芸能の発生 108 武士の狩猟民的性質について
・2009-04-17 中世芸能の発生 111 弓箭の道
・2009-04-17 中世芸能の発生 112 弓と北面の武士




・2010-03-02 中世芸能の発生 289 サチ サツ
・2010-03-03 中世芸能の発生 290 獲物(サチ) 幸(サチ) 猟夫(サツヲ)
・2010-03-05 中世芸能の発生 292 海幸山幸(ウミサチヤマサチ) ことばの音



・2011-03-02 中世芸能の発生 384 ことばと自然 祝言



・2010-04-01 中世芸能の発生 298 言語の幹や根 芸術言語論
・2010-04-02 中世芸能の発生 299 ことばの発生と本質
・2010-04-03 中世芸能の発生 300 俳優(わざおぎ) 神態(かみぶり)
・2010-04-04 中世芸能の発生 301 歌の音



・2008-08-13 さ行

・2010-02-03 命の全体性



つづく
by moriheiku | 2010-03-04 08:00 | 歴史と旅
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