中世芸能の発生 285 ヒ ヒル ヒヒル 蝶



つづき


『日本語に探る古代信仰』から。

「ヒ」の音(語)の表す観念を、
神名の中に見る「ヒ」、
また「ヒ」を語根とする名詞、動詞に見る。



・ヒ (神名)
 
高皇産霊神(タカミムスヒ) 禍津日神(マガツヒ) 天之日矛(アメノヒボコ[命])

天之御中主神、高御産巣日神、神産巣日神、など。
「ムス」は自然に生成すること(苔ムス)。
「ヒ」は霊力を表す語で、この神名は万物の生成する霊力の神格化。観念的な神。
禍津日神は災をもたらす霊力の神格化。




・ヒル (神名、動詞、名詞)

天照らす日女(ヒルメ)之命=大日孁(ヒルメ)尊
映暎 ヒカリ カヽヤク ヒラメク ヒル
蒜 葱 薤 蛭 ヒル

「ヒル」は「ヒ」の動詞化した語。名詞にも用いられる。
「ヒルメの命」は光り輝く女神で、天照大神の前身の太陽神。

植物や動物に、ヒルと呼ばれるものがある。
植物の蒜(ノビル)葱(ネギ)薤(ラッキョウ)は、
少しの風に葉がヒラヒラ揺れ動く姿からヒルと呼ばれた。
蛭、水蛭は、体をヒラヒラ波打たせて匍匐する形状によって、ヒルと呼んだ。
家鴨をアヒルというのは、足をヒラヒラさせる姿を「足ヒル」と言ったようだ。

口語の「ヒラヒラ」「ヒョロヒョロ」が、「ヒル」から派生した形状言。




・ヒヒル (名詞、動詞)

白蛾(ヒヒル)
則随風以飄(ヒヽル)□松原及葦原 (□は文字が出なかったので省略)

「ヒヒル」は動詞「ヒル」の重複語。タタク→手(タ)・手(タ)クに同じ。

蛾や蝶がヒヒルと呼ばれたのは、そのヒラヒラ飛ぶ形状にヒの霊力の活動を見たから。
沖縄『おもしろさうし』で蝶を「ハベル」。奄美大島で蝶や蛾を「ハベラ」。
与論島では「パピル」。
沖縄語辞典でその文語は ha-biru 。「羽(ハ)・ヒル」語源と考えられる。



文字以前の古いことばは、
ものの性質とことばの音が一致している。

それにふさわしい音をつける。

あたりまえだけど。。



参考:土橋寛『日本語に探る古代信仰』





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つづく
by moriheiku | 2010-02-18 08:00 | 歴史と旅
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