中世芸能の発生 158 母語 母国語 民族語



つづく



豊田国夫(著)『日本人の言霊思想』のあとがきに、
著者が言霊思想に興味を感じたのは、学生の時代、
言語問題の研究をはじめてからであったとある。

“当時、台湾・朝鮮などに対して、日本は一視同仁のひたすらな皇民化のため、強力に「国語普及」の運動をすすめていた。「国語」を唯一の拠りどころとするこの同化方針に、私はまず疑問を感じた。それから「民族と母語」というものに関心をいだいた。はじめ、なぜそれほどまでにして、国語に依存するのだろうかと思った。

 母語のない民族はいないはずなのに、相手のことなど意に解しない、この手まえ勝手な普及策に義憤さえ禁じ得なかった。それが、為政者の自国語に対する過信であるということはおぼろげながら理解できていたが、私の疑問はむしろその過信の根源にあった。”


著者の豊田氏が大学を卒業した昭和十七、八年ごろは、
卒業と兵隊になるということがつながっていた。

“万が一にも生還できるという保障はほとんど期待できなかったのである。そんな状況であるから私は、遺書のつもりで卒業論文を書いた。それだけに、入隊してしばらくたって城戸先生から、「何とかして公にする機会を作りたいと考えている」という葉書をいただいたときは、それだけで、泣くほどに嬉しかった。”


著者は東南アジアの各地を転々とし、
戦闘機乗りの戦場生活を終戦までおくった。
(わりとエリート。しかしつねに死と向かい合っていた点では他の誰とも同じ)

戦争中ジャワ、スマトラ、ボルネオ、カンボジアなどで、
各地の原住の人々と、その生活風俗に接し、
歯科治療でシンガポールの街に出たおり「ラッフルズ博物館」で
東南アジア各地のありとあらゆる種族の生活風俗を示す物具から、
地質、動植物にいたるまでの実物・標本を見た。
中でもなぜか呪具・呪物などが頭のそこへのこり、
それが戦後も、著者を学生時代の民族と母語への関心へかきたてる。


勢力言語に対する少数、発展途上民族語の言語悲劇は、
現在もA・A諸国に多い。

著者は、
どの民族語にも固有の言霊観がある。
民族にとっての言語は二次的な条件であるが、
ひとつの民族の固有の生活形態を維持するには、
その民族母語は不可欠である。
と考えられている。



私は『日本人の言霊思想』は、
こうした著者の経験を通ることなしに
あらわれなかったことを思う。



参考:豊田国夫『日本人の言霊思想』




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自然と人の共感にあらわれる。

こうした方々の身体を通ってさまざまが導き出されていることに、
深く感動する。いつも。

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つづく
by moriheiku | 2009-06-29 08:00 | 歴史と旅
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