中世芸能の発生 143 寺社縁起


つづき


中世までの芸能は、もっぱら神仏の霊験や縁起を語る。

言葉や絵、言葉のない踊りなどにせよ、
神仏をあらわしたのはなぜ。

恋愛談にせよ英雄談が、
神仏の徳や霊験談とともに語られたのはどうして。

私は何も知らなかった。


現代では文学として鑑賞されることの多い「物語」「お伽話」の、
文学性以外の側面を見たいと思う。



古い物語ほど、神仏や寺社の縁起が語られている。

寺社縁起は物語(お伽話)の発生とその芸能化に密接につながっており、
中世芸能の内容とは切っても切り離せないものだ。


寺社縁起についてちょっとまとめると。

五来重氏によれば、お伽話成立までの展開は、
神話 → 寺社縁起 → 唱導説話 → お伽話
と考えられる。

寺社縁起は多角的な内容を持っているが、

五来重氏が試みられた分類では、
寺社縁起はまず大きく三つ、
「物語的縁起」、「歴史的縁起」、「密教的縁起」、
の類型に分類される。



「物語的縁起」
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寺社縁起は、まずその寺社の開創を神または仏の出現の奇跡として語られる。
それが物語的縁起である。

氏によると、この縁起という語は、
因「縁」和合によって現象(諸法)が生「起」するという仏教用語というよりは、
むしろ、不思議な「縁」によって神仏が発「起」出現する意味であろう、
とされる。


寺社縁起は、五来氏の頃まで学問的な研究対象になりづらく、
近年まで研究が遅れてきた(近年急速に進んだようだ)。

研究の遅れは、
寺社縁起が多角的な内容を持っているけれども
その分類がなされてこなかったことにある。

寺社縁起は本質的に奇跡を語ったものであるから、
時空を超越して歴史を無視した形になり、荒唐無稽の印象をあたえ、
そのため長く実証的な研究の圏外におかれるてきたと考えられる。



「歴史的縁起」
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寺社縁起は本質的には奇跡の物語的であるが、
一方で歴史性も持っていた。

その神社や寺院の社殿、伽藍が
いつ、誰によって建てられたかを明らかにする必要があったため。



「密教的縁起」
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上記二つの類型の寺社縁起のほか、
五来氏は、密教的縁起という類型を設定された。

密教的縁起とは
“御祭神の本地を密教諸尊に当てた一種の哲学である。”

現代からすると密教的縁起は哲学というよりこじつけ的な印象だけど、

“まったく歴史を無視するとともに、物語性もないのが、密教的縁起の特色で、
その内容は哲学的ということができよう。”

歴史を無視するとともに、物語性もないのが、密教的縁起の特色、、、
確かに。ププ。




現代から見ると、
奇跡を語る物語的寺社縁起よりももっと荒唐無稽に思われるのが、
この密教的縁起の部分だ。
神話の密教仏教的解釈の中世神話とつながっている。

これら中世神話や密教的縁起の創生に見られる運動は、
不安定な社会状況や思想の変化の、
やむにやまれなかった深刻さからおきていた。

古来の信仰と仏教の矛盾を馴染ませることで、
はざまにきしむ心を救済しようとする人々の動きだったのではないかと思う。


この仏教という一種の言語を得て続々と進められた、
古来の思想の仏教的解釈による置き換えは、
古ぼけて見えたものが新しい世界に変って見えることにもなり、
やむにやまれぬものであったけれども同時に、
人々はそうすることによろこびも見出していたのではないかと感じる。


中世神話の置き換えは思想的哲学的には未熟なものも多い、けれども、
新しいツールを得て、
連歌のように新しい場面が展開していくよろこびと熱を
人々は追っていたかもしれない、と想像する。

やむにやまれぬ不安と切実さの半面で。

・2008-06-26 神仏習合 01




“ 寺社縁起の研究は歴史的縁起も密教的縁起も大切であるが、もっとも中心になるのは物語的縁起であろう。

これは一種の唱導文学として書かれるとともに、お伽草子のような絵物語文学から、お伽草子や昔話のような伝承説話へ発展してゆくからである。”


・2009-05-25 中世芸能の発生 133 俗の土壌


参考: 『寺社縁起からお伽噺へ』 五来重


※ この日記では物語とお伽話(御伽話 おとぎばなし)を同じ意味で使用 


つづく
by moriheiku | 2009-06-08 08:00 | 歴史と旅
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