中世芸能の発生 131 だだ 足踏み



つづき


お相撲さんが土俵で踏むの四股(しこ)は、
何を意味しているのかはっきりしていないと聞いたけどほんとかしら。

そんな。
お相撲は塩まいて、紙垂を垂らして、弓取って、
あの力足(四股)は、
命をゆさぶり活気づけるたまふりと、鎮める鎮魂の足踏み、それ以外に何かあるの?



足踏みの歴史は古い。

“ この足踏みは、わが国の祭儀と芸能においてはもっとも神聖な動作としてながく伝承され、「だだ」・反閇(へんぱい)・足拍子・六方などと名づけて、秘伝視された。私はこの足踏みにもっともプリミティヴな、呪的舞踊の基本形をみとめ、ここに祭儀より芸能への発展的契機を見出したいと思う。” 五来重『芸能の起源』


「だだ」は足踏みの擬音的名称と考えられる。
駄々をこねる、地団太をふむ、足をダンダン踏み鳴らす。

悪い精霊を、ダンダンッ、
足を踏み鳴らして威嚇し、追い払う。
踏みしめて鎮める。

古い仏像は邪鬼を踏んづけている。


原始的な自然信仰の中にあって、古代の鎮魂の概念は、
五来重においては
(一)悪霊を鎮め攘却する鎮魂
(二)外来魂を身体に鎮める鎮魂
と考えられた。


しかし私は語義から、
私は鎮める以前の、生命力を活気づける行為 たまふり がはじめと思ってる。
・2009-12-09 中世芸能の発生 261 たまふり たましづめ 鎮魂

命が活発にすることで、同時に悪やケガレがはらわれる、
という考え方だ。

反閇という語は、大陸から伝わった言葉で、
それ以前の原始的な鎮魂の行為である足踏み「だだ」にあてはめられた。




東大寺の修二会(お水取り)は、
呪師や練行衆がはげしく足音をたてる。

修二会で松明を持って走るのを、
「達陀(だった)」と書き「ダッタン」と発音する。
そこからこれは満州蒙古の北方にいた韃靼(だったん)族の火祭が伝わったものと
解釈されることがあるそうだ。

いや、しかし、それは「だだ」。
はげしく足を踏み鳴らし活気づけ鎮めているのでしょう。


論理的な理屈ならそれは後付けだと思う。
きわめて原始的なはげしく足を踏む行為は身体にきけばわかる。

それは威勢よく、活気づけているのだ。
だってそういう威勢のよい音には、心身が動くのを感じるもの。

と同時に、
“これはわれわれが犬を追うしぐさにするとおり、敵を威嚇しておいはらう動作、または敵と対抗する(いわゆる「もがる」)動作に起源するものであろう。”


例えば、いやな何かが近づいてきた時、どうする。
この外まで、何かを追い払いたい時、どうする。
威嚇してその境界の外へ出し入ってこられなくするでしょう。


遠い理屈をつけるよりまず身体に、自然に聞けばいい。
論理的な理屈が生きつづけるのは、それが宿るもとが生きているから。



寺院の修正会、東大寺の修二会で、
呪師が練行衆の僧に先立って堂を清め結界を作るのはきっとこれらのことで、

精霊を脅かし場を清めて結界をする、

もっと古い形では、命を活気づけているのであって、
さらにその行動は密教や陰陽道が入って後は、密教や陰陽道の作法をまとった。


これを行う呪師(しゅし・じゅし・のろんじ・咒師)は、
山岳で行をつんだ修験者、山伏のような人々で、
その根っこには身体と自然と密接だった原始的な民俗信仰がある。


呪師のような人たちのするこの足踏みやふっつと断ち切ったりする儀式は、
様式化して芸能になっていった。

足踏みの動作は、
芸能の舞に残り、田楽に残り、念仏踊に残り。
彼等が持ち伝えた物真似や鎮魂(たまふり・たましづめ・ちんこん)の動作は、
芸能の中に生きている。




国家的な仏教ができた後、
神態の真似(まね)や原始的なたまふり・たましづめ(鎮魂)をする
古い信仰に連なる宗教者たちは、
寺社へ隷属していった。

彼らは寺の警備をし、鐘をつき、寺の田を作り、芸能者にもなった。
半僧半俗の童形(童子形)のままの人々も多くいた。



歌舞伎『勧進帳』で、弁慶が延年の舞を舞う。
お能『安宅』も弁慶が延年の舞をすることがあるそうだ。

「・・もとより弁慶は 三塔の遊僧 舞延年の時の和歌 これなる山水の 落ちて巌に響くこそ・・」

遊僧とは、延年舞など芸能する僧。
本物の弁慶が遊僧であったかどうかは知れないけれど、

山の僧、山伏で強い弁慶が、
学生(学僧)でなく、古い時代の呪師と近い遊僧であった設定は、
真実味のあるものに思われたでしょう。


参考:『芸能の起源』五来重


自然居士
・2008/09/25 中世芸能の発生 29 勧進聖 自然居士
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・2009-12-08 中世芸能の発生 260 呪術・宗教と身体感覚



修二会 だだ 呪師走り
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・2009-07-13 中世芸能の発生 173 修験道 原始回帰
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・2011-07-22 中世芸能の発生 402 神仏習合思想 日本人の仏教
神仏習合の底に流れるもの

神仏習合は、古来の民俗信仰と渡来の仏教思想の
ひずみを解消し整合性をとるために切実に求められ
一気に進んだのではないかと思う。


つづく
by moriheiku | 2009-05-13 08:00 | 歴史と旅
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