中世芸能の発生 47 谷行(たにこう)


つづき

古い時代の山岳の修行は厳しいもので、
死も覚悟されたものだったそうだ。

熊野大峯にも穢れた者を落とした谷がある。

修行中に病で動けなくなった者は、
谷へ落として埋めることになっていた。
これを「谷行」(たにこう)という。ヒーーー。



死者を葬る谷にあこやなどの名があって、
あこや、あくや、あこ、あたごなどの名が各地にのこっていることがある。
京都の東山にもあるし、山岳信仰、風葬の面影。
地獄谷と言われたところもあった。

山は他界。神や霊の鎮まる聖域で、
民俗仏教では浄土であり同時に地獄でもあり、
浄土と地獄は地続きだった。



お能で「谷行」という曲があるそう。
筋は、

母親の病気を治したい気持ちから、
少年若松が先達に頼んで峰入りするが、
途中で動けなくなり「谷行」になる。

不憫に思った先達が祈ると、役行者が現れて、
伎楽鬼神を使って若松を生き返らせた。

というもの。



・・・お能って、お能って、中世のものだけど、
なにからなにまで古代情報が満載。。



行者(修験者、山伏)の験の力によって、伎楽鬼神が生き返らせるとは。


そこに、宗教と芸能が未分化だった古い時代があらわれる。


古い時代には、
人のする、命を活気づけ再生させるあそび・たまふりが芸能だったこと。


中世の猿楽(お能)までの水の流れを見るようだ。




・2010-02-15 中世芸能の発生 296 ヨム 和歌を詠む(よむ) 芸能
・2010-08-24 中世芸能の発生 346 しづやしづ しづのをだまき くりかえし



命を活気づけ再生させるあそび、たまふりを人が行う行為が、
古い時代の芸能だったこと。
・2011-06-19 中世芸能の発生 400 遊び 神楽
・2009-08-01 中世芸能の発生 182 芸能の始め


・2011-08-18 中世芸能の発生 410 生命の連鎖 歌から掬(すく)いとる方々
「命っていうのは、やっぱり生き物を見ていますとね。みんなつづいていこう、つづいていこうって一所懸命生きてるなって思うんです。それはもちろん死というものもあるんですけど、なんか自分だけじゃなく、他の生き物たちも含めてつづいていってほしい、っていう、そういうことがみんなの生き物の中にこう、こもってる。」

そうした行動が、人間だったら、歌や、花を植えるとか、そういう行為で、
それが生き物としての人間の表現、

と、おっしゃって、
そういう意味でもこの歌を素晴らしい、と中村さんは思われたそうだ。

日本の信仰というか、信仰ともいえない、謂わば民俗の底には、
自然という水流がずっと続いていると私は思う。

それは個人の教祖や教義など、つけようもないもの。
体系的でも哲学的でもない、
自然の実感としかいえないようなものだ。

中世芸能が生まれるまでの、
芸能と宗教と分化していない古い日本の芸能は、
自然に寄せてヨ(イノチ)をことほぐ、祝福の系譜だ。




つづく
by moriheiku | 2008-12-31 08:00 | 歴史と旅
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