地形を旅した 布留でする恋



つづき


布留(ふる)の森は、底が澄んでいるような感じがする。

それが神さびて美しいイメージにもつながっているのかな。

万葉集の中で「袖振る(ふる)」と布留の恋の歌を詠んだ人々にとっても、
ただ「ふる」という言葉だけを重ねたのではなくて、
布留の森と歴史の印象をかさねていたんだろう。


お能に「布留」という曲(演目)があるそうだ。
後世作り出された話を素材に、
室町時代の観阿弥あるいは世阿弥が作ったものだそうで、
お能は知らないけどその伝説は聞いたことがある。

布留川で女性が布を洗っているところに
剣が流れてきて布に留まったというもの。

剣の霊力を神として祀ることになった石上の布留だからそういうストーリーに!
中世感満載!

お能では、石上布留に来た山伏が布留川で布を洗う女性に出会い、
布留のいわれを聞く。女性は女神に変わって剣を手に舞う。
美しい演目なのだそうだ。

政治と宗教の分離していない古代に、氏の上は氏の神を祀る者でもあった。
その妻や娘は神に仕える巫女のトップだった。
天皇が国の祭祀の長で、皇女が伊勢の斎宮だったことにみえるように、
物部の姫も斎(いつき)の姫として物部の氏社となった石上布留の社にいた。
お能「布留」の女神は、
剣を祀るかつての物部の斎の姫の印象も重なっているのかしら。



ふる(布留)という言葉の音と、ふつ(布都)という剣の音。
布留の森と社、ほろびた物部の、
神さびた美しいイメージがあったのかな。


お能の布留の女神は、布留のいわれを山伏にどう語ったんだろう。




万葉集では恋の歌の布留。
布留でする恋はたぶん真剣な恋。



石上の布留に初めて訪れた時、もうずいぶん前、
布留のことは何も知らなかった。
ただ森のありようが美しかった。


私にとって布留は、
冷えて澄んだ森と、山。水の匂いがする。

私はここが好き。



・2008-10-28 地形を旅した ふつ 剣の音

・2008-10-22 地形を旅した 布留

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・2010-11-12 中世芸能の発生 366 酒呑童子



つづく
by moriheiku | 2008-10-28 08:04 | 歴史と旅
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