中世芸能の発生 43 マンガ『説経 小栗判官』近藤ようこ作 語り物とは


つづき

マンガ『説経 小栗判官』近藤ようこ作。

中世について書かれた本をたてつづけに読みながら、
数冊併読派の私はちゃっかり、合間にマンガは欠かさない。

『説経 小栗判官』近藤ようこ作 は、
こないだ一緒に買って読んだ
『妖霊星 身毒丸の物語』と同じ作者のマンガで、
説経節をベースにした物語。

『妖霊星』は、設定が説経節「しんとくまる」で
内容は「しんとくまる」と異なるのに対して、
『小栗判官』は説経節『小栗判官』の筋だ。

当時の風俗を絵にしてあらわせてすごーい。
ディティールってどうして調べられたんだろう。
当時の各所の鳥居、畳、天井、馬の飼い葉桶。。

輝手の父の室礼は初期書院か。後の文化の影響か。



妻の父に憎まれ毒殺された小栗(をぐり)は、
閻魔様のはからいで、この世へ還る。

しかし目も見えず耳も聞こえず口もきけず。
人でない、餓鬼のような姿をしているから、
小栗を見つけた上人に「餓鬼阿弥陀仏」と名付けられる。

閻魔大王の知らせでは、
熊野本宮、湯の峯の湯に浸かると元に戻るという。

餓鬼阿弥は、板に輪が付いただけの粗末な車に乗せられて、

「この者を一引き引いたは千僧供養 二引き引いたは万僧供養」

“餓鬼阿弥を載せた車は
行く先々の土地の人々に引かれ
東海道を西へ上っていきます”

関東の上野が原から紀州熊野へ。
誰かの供養のためにと、人々が少しづつ小栗の車を引く。

小栗の車は、別れた妻の輝手姫の住む近くへも。
今は遠く美濃の遊女屋に売られ下働きをしている輝手。
車に乗っているそれが夫の小栗とはとうてい気付かないまま、
小栗の供養にと休みをとって、数日間、この車を引いた。

車が上野が原を出発して四百四十四日め。
人々の運んだ小栗は熊野、湯の峯に浸かり、
四十九日めにもとの小栗になった。



~~~
熊野の湯の峰温泉へは、たびたび行っていた。
小栗が浸かったというつぼ湯は、
湯の峰(湯の峯)温泉の真ん中くらいにあって、
外から見えるから、女の人にはきびしくて、
ちょっと入れなかった。(今は見えないみたい。)
特に温泉好きでもなくて。

熊野古道が世界遺産に指定されてからは、
混んでいるかも、と湯の峰には行っていない。

湯の峰へ行くたび説明書は目にしたけど、
その頃、小栗判官のことはよく知らなかった。説経節についても。
古代一方で中世にぜ~んぜん興味がなかったのだ。
んも~~、アホアホポカスカ。

知っていたら、つぼ湯に入ったかしら。
どかなー。




語り物である説経節の古い言葉を
文字におこしたものを少しだけ読んだ。

それらは皆、怖ろしく、情深く、哀切に満ち、
ことばの音は体にひびく。

ことばの音が響いて胸に迫るのか、
ことばの意味にどこかが揺り動かされるのか。

たぶん両方なんだろう。
語り物って、そういうものなんだ。



復活した小栗は次々に復讐をする。
生きたまま土に埋めのこぎりで首をひく。
ことばで聞く復讐の様はおそろしい。おそろしい。
しかしマンガ『小栗判官』は、
説経節と違って唱導(仏教に導く)するものではないので、
そこはさらっとクリーン。全体がクリーン。
マンガはをぐりの筋を追っているが、
苦しみから昇華さすのは仏教なんて思わせる物語ではないのだ。
中世の熱さはイヤよ。
あーん、アタシ、現代人でよかった。ホッ。



小栗の車を引く美しい輝手姫は、
好奇の目から逃れるために、

顔に墨を塗り、着物の裾を上げ、
烏帽子をつけ、笹の枝に幣をとりつけて、
狂気を装って車を引いた。

墨と着物を除けば、その姿は白拍子のようだ。




幣(ぬさ)
・2008-08-11 蟻通明神と御幣
・2007-11-06 手向山 紅葉の錦
幣は神道由来だけど、
神仏習合、本地垂迹が進められた水波之伝の中世に、
そんなことは関係ないのだ。

水波之伝 
・2008-09-26 水波之伝

白拍子 語り物
・2008-10-12 中世芸能の発生 40 説経節
・2008-10-15 中世芸能の発生 42 よろぼし 弱法師 妖霊星 しんとくまる

語り物の節のルーツ
・2008-09-30 中世芸能の発生 39 声明しょうみょう 中世芸能の中の声明


中世の女の旅
・2009-02-20 中世芸能の発生 76 聖と穢をまとった輝手 小栗判官
・2009-02-27 中世芸能の発生 78 物詣 道行き



女人救済
・2009-09-02 中世芸能の発生 195 『神の嫁』折口信夫
・2009-09-03 中世芸能の発生 196 かたがわり
・2008-07-10 神仏習合思想と天台本覚論 02
by moriheiku | 2008-10-17 08:00 | 言葉と本のまわり
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