Sさんの庭



祖父母の頃から長いことお世話になっていた庭師のSさんは、
奥様の看護と、ご本人が体調を崩されたことが重なり、
ここ数年は療養につとめられ、
お仕事をお休みされていた。

庭は、お世話をしてくださる庭師さんがたで変わる。
実家に、Sさんの代わりに、
はじめの年にいらした庭師さんがしてくださった庭は、
雑然とした。
仕方がないと思った。


自然に群生していると思っていた
石の脇の葉ランやらは、荒れた。

Sさんが世話をしていた間の
葉ランは、つや良くいい姿の、
石の脇はきれいな日陰であった。


松も、枝振りは同じなのに、
葉もまばらに見え、
庭は、まとまりなく感じた。



一見、整えられたように見えたつつじたちは、
何人か庭師さんが入れ代わり、
年が過ぎるごとに、
順に花付きが悪くなり、ついにほとんど付かなくなった。
長い年月で、こんなことはなかった。


飛び石の間の苔も、乾き、
ふかっとしたいい苔でない苔にかわった。



庭師さんは、2、3人でいらっしゃるが、
ここ2年ほど来て下さる庭師さんのリーダー?は若い方だった。

その方がはじめて手入れされた時、
その前の雑然とした感じは一掃された。

植栽を変えることなどないのに、
どことなく若くモダンで、
すっきりとして、

道路から玄関までの小道の生垣のラインも、
すかっとし、
この家の庭もこんな表情になるのかとわくわくした。

最初の頃なんとなくつたなかった線も、
だんだんプロになって、
職人さんの成長まで感じられ、感動した。


ただ、樹木の精気は元に戻るに至らなかった。
もう弱ってしまったのだ、と思った。




今年の終わりは、
お休みされていた庭師さんのSさんがされる。

「「どうしてもやらせてくれ」って言っていたぞ。」

と秋に父が言っていた。



以前、
私が何にもわからず、
何気なく見えていた庭は、
主張せず、偏らず、瑞々しくあった。

Sさんだろうと思う。


なんでもないと思っていた庭は、
Sさんが丹精されていた。

あの庭は、
実家の庭だが、
Sさんの庭だ。

木も、花も、草も、土も。
苔も。

Sさんが咲かせていた。



木々は土はどんなに喜ぶだろう。

私もうれしい。











※しかし結局Sさんは来ることができなかった
by moriheiku | 2007-12-29 08:00 | 言葉と本のまわり
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