芸能の発生 古代~中世 03 和歌とよごと



つづき


現代では 呪 という文字は、
多くの場合悪縁を生む方向に印象されるけれども、
古くは 呪言 を よごと (吉事 吉言 寿詞 穀言 齡言)と言った。



万葉集の末尾の歌。

大伴家持の歌。


新しき年の始の初春の今日降る雪のいや重け吉事

あらたしき としのはじめの はつはるの きょうふるゆきの いやしけよごと


新しい年のはじめの 新春の今日の 降りしきる雪が積もるように
 いっそう重なれ 吉き事よ
 

新 年乃始乃 波都波流能 家布敷流由伎能 ・・・

                 参考:『万葉集(四)』 中西進 著 




天平宝字三年(759)。

古い氏の長であった家持が、
新春正月一日、国守として赴任先の因幡の国で、
饗(あえ)を国郡の司等に賜へる国庁の行事で詠んだ。賀歌。

国守として、よごとを述べた。

祝ぐ。
その歌に呪がある。


言霊の発動と威力、それに物事が従うことが信じられた上の呪。



大伴氏の全盛時は過ぎ、
氏を支える家持は政治の中枢から遠い一国司として地方へ下り
正月を迎えた。
時代は次の時代に移ろうとしていた。


この歌は、
新春の、最初の歌で、
万葉集の末尾の歌。
数多くのこされた家持の歌の、記録に残る最後の歌だ。


歌が呪の末にあった時代から、
歌は「あめつちをうごか」す記憶は残りながらも
「人の心を種と」し、より個人の感情を重視する時代へ変わっていく。 
※古今和歌集 仮名序 紀貫之



家持は古い時代の言霊の力、よごとの、
歌の力を信じていただろうか。


私は、折にふれ、
大伴家持に心が寄せられる。







私は、私も、和歌が古い歌謡から生まれたと思えない。



和歌は古代の歌謡から進んだ形と言われることも多いけれども。
やっぱり、私も、和歌は祝詞のようなものから生まれたのではないかと思う。


古い歌には、かならず祈があるから。


直接願いをうたったものではなくても。






・2009-12-13 中世芸能の発生 265 田児(たご 田子)の浦ゆ

・2009-12-11 中世芸能の発生 263 ほうほう蛍 まじないのことば



・2008/07/28 芸能の発生 古代~中世 02 ことわざと歌

・2008-08-13 「ほ」を見る。
・2008/03/23 春の黄の花木 マンサク



・2009-03-17 「奈良の世の果ての独り」


家持
・2009-09-10 時の花
・2009-09-09 清き瀬を馬うち渡しいつか通はむ
・2009-09-06 毎年に鮎し走らば
・2009-09-23 中世芸能の発生 203 狩猟 採取
・2009-09-07 珠洲の海
・2009-09-08 言語美

・2009-12-12 中世芸能の発生 264 いや重(し)け吉事(よごと)





イノルことの強制性と原始性
・2010-06-04 中世芸能の発生 319 宜(ノル) 祝詞(ノリト) 法(ノリ) 呪(ノロフ)
・2010-06-05 中世芸能の発生 320 祈(イノ)リ イ罵(ノ)り
・2009-05-13 中世芸能の発生 131 だだ 足踏み




・2010-02-15 中世芸能の発生 296 ヨム 和歌を詠む(よむ) 芸能




直接願いをうたったものではなくても、
古い歌に、祈のようなものが感じられる訳 
・2010-05-17 中世芸能の発生 312 ことばの神聖視
・2010-05-18 中世芸能の発生 313 やまとことば
・2010-05-19 中世芸能の発生 314 仏教が和歌を退けた理由
・2010-05-20 中世芸能の発生 315 仏教と和歌の習合
・2010-05-21 中世芸能の発生 316 今様即仏道 芸能者と仏教



つづく
by moriheiku | 2008-07-28 08:02 | 言葉と本のまわり
<< 芸能の発生 古代~中世 04 ... 芸能の発生 古代~中世 02 ... >>