つづき 現代では 呪 という文字は、 多くの場合悪縁を生む方向に印象されるけれども、 古くは 呪言 を よごと (吉事 吉言 寿詞 穀言 齡言)と言った。 万葉集の末尾の歌。 大伴家持の歌。 新しき年の始の初春の今日降る雪のいや重け吉事 あらたしき としのはじめの はつはるの きょうふるゆきの いやしけよごと 新しい年のはじめの 新春の今日の 降りしきる雪が積もるように いっそう重なれ 吉き事よ 新 年乃始乃 波都波流能 家布敷流由伎能 ・・・ 参考:『万葉集(四)』 中西進 著 天平宝字三年(759)。 古い氏の長であった家持が、 新春正月一日、国守として赴任先の因幡の国で、 饗(あえ)を国郡の司等に賜へる国庁の行事で詠んだ。賀歌。 国守として、よごとを述べた。 祝ぐ。 その歌に呪がある。 言霊の発動と威力、それに物事が従うことが信じられた上の呪。 大伴氏の全盛時は過ぎ、 氏を支える家持は政治の中枢から遠い一国司として地方へ下り 正月を迎えた。 時代は次の時代に移ろうとしていた。 この歌は、 新春の、最初の歌で、 万葉集の末尾の歌。 数多くのこされた家持の歌の、記録に残る最後の歌だ。 歌が呪の末にあった時代から、 歌は「あめつちをうごか」す記憶は残りながらも 「人の心を種と」し、より個人の感情を重視する時代へ変わっていく。 ※古今和歌集 仮名序 紀貫之 家持は古い時代の言霊の力、よごとの、 歌の力を信じていただろうか。 私は、折にふれ、 大伴家持に心が寄せられる。 私は、私も、和歌が古い歌謡から生まれたと思えない。 和歌は古代の歌謡から進んだ形と言われることも多いけれども。 やっぱり、私も、和歌は祝詞のようなものから生まれたのではないかと思う。 古い歌には、かならず祈があるから。 直接願いをうたったものではなくても。 ・2009-12-13 中世芸能の発生 265 田児(たご 田子)の浦ゆ ・2009-12-11 中世芸能の発生 263 ほうほう蛍 まじないのことば ・2008/07/28 芸能の発生 古代~中世 02 ことわざと歌 ・2008-08-13 「ほ」を見る。 ・2008/03/23 春の黄の花木 マンサク ・2009-03-17 「奈良の世の果ての独り」 家持 ・2009-09-10 時の花 ・2009-09-09 清き瀬を馬うち渡しいつか通はむ ・2009-09-06 毎年に鮎し走らば ・2009-09-23 中世芸能の発生 203 狩猟 採取 ・2009-09-07 珠洲の海 ・2009-09-08 言語美 ・2009-12-12 中世芸能の発生 264 いや重(し)け吉事(よごと) イノルことの強制性と原始性 ・2010-06-04 中世芸能の発生 319 宜(ノル) 祝詞(ノリト) 法(ノリ) 呪(ノロフ) ・2010-06-05 中世芸能の発生 320 祈(イノ)リ イ罵(ノ)り ・2009-05-13 中世芸能の発生 131 だだ 足踏み ・2010-02-15 中世芸能の発生 296 ヨム 和歌を詠む(よむ) 芸能 直接願いをうたったものではなくても、 古い歌に、祈のようなものが感じられる訳 ・2010-05-17 中世芸能の発生 312 ことばの神聖視 ・2010-05-18 中世芸能の発生 313 やまとことば ・2010-05-19 中世芸能の発生 314 仏教が和歌を退けた理由 ・2010-05-20 中世芸能の発生 315 仏教と和歌の習合 ・2010-05-21 中世芸能の発生 316 今様即仏道 芸能者と仏教 つづく
by moriheiku
| 2008-07-28 08:02
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