『皮膚は考える』 覚書 02


つづき


“興味深いことに、同じく脳の研究者であるアイオワ大学のダマシオ博士も

意識に対する身体状態の影響の大きさ、

特に生体と環境との境界を成す

皮膚の重要性を指摘しています。(『生存する脳』田中三彦訳、講談社)

ダマシオ博士は仮想実験として「桶の中の脳」、

すなわち、よくSF映画やマンガに出てきますが、

脳だけ取り出して培養液で満たした容器に入れて、

そこにつながっている神経で脳を刺激する、という実験系を挙げています。

そして、そのような状態の脳は正常な「心」を持つことはない、と主張しています。

博士によれば「心」、言い換えれば感情や気分といった精神活動は

脳と身体との共同作業で形成されるのです。

そひてさらに身体の中でも皮膚が身体最大の臓器として、

我々の「心」を生み出すのに多大な寄与をなしていると述べています。


このような指摘はまだ珍しいと思いますが、

脳の研究で世界的に知られた研究者の方々が自ら脳単独の機能の限界を指摘し、

それ以外の身体、とりわけ皮膚の役割の重要性を指摘されていることは非常に興味深いことです。


表皮からのさまざまな情報の中には

我々の意識には上り難いものが多く含まれていると考えられます。

そのため環境からの情報処理システムとしての

皮膚の意義について語られることは少なかったと思います。

しかし、本書で述べたように表皮が全身に対してさまざまな情報を発信していることは

疑うべくもありません。

そして表皮の状態の変化がさまざまな面で心や身体に影響していることも

確実であると思われます。


精神状態が身体に影響することが明らかになってきて、

我々は心のケアを語るようになりました。

さまざまな内臓疾患と心のつながりが指摘され、

それらに疾患の改善のための心のケアの重用性が、

今ではごくあたりまえのように語られています。

おなじ意味で近い将来、中枢神経系と同様に外部からの情報を処理し、

かつ環境と身体の境界を形成する表皮の健康が、

心や身体全体の健康に対して持っている意味を

科学的に考察すべき時期が来なければならないと思います。”



つづく





皮膚は考える  (岩波科学ライブラリー 112)  傳田 光洋 (著)
by moriheiku | 2008-03-20 08:01 | 言葉と本のまわり
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