今年も街道の市(いち)へ行った。 昔ながらの酒屋さんで、 お料理に使う美味しい新酒の酒粕を、去年の倍買った。 街道に並ぶ屋台の間を通って、髪に屋台のにおいがついた。 植木の出店はにぎわいのおわりのほう。ここは大人ばかり。 一昨年は、みぞれの下に咲いていた、あの清潔な白梅の花は、 まだ丸い蕾だった。 ◆ イチ の 「イ」 ・2012-02-13 中世芸能の発生 425 市(イチ)のイ 古代の市(イチ)は、ミチ(道)を通って、 文物や人やさまざまのものの交錯するところで、 イノチやチカラ、つまり活気のあつまるところと考えられた。 古代の人は活気を、一種の力と考えていた。 「イチ」(市)の語を構成する「イ」の一音節は、 元来、 生命力・霊力の横溢する状態を意味。 その「イ」の音のイメージは、 たとえば今も「厳(いつ)」「いかし(厳し)」の語に感じられるように、 たけだけしいほどの 自然の生命力(昔の人にとっては呪力、霊力でもあった力)の横溢。 人々はそういう性質や力をやがて霊威・神威と考えるようになって、 元来の「イ」の性質を表す「イ」という一音節が 様々の神聖なものをあらわす語に用いられていったと考えられる。 (古代における神聖とは、生命力・霊力の強さ ・2010-02-04 中世芸能の発生 268 古代における聖性とは) 「イ」を語根とすることば ---------------------------------------------------------- いか・し 【▽厳し】 (大辞林) (1)霊威が盛んである。神秘的な力に満ちている。 (2)たけだけしい。荒々しい。 いつ 【▽厳/〈稜威〉】 (大辞林) (1)神聖であること。斎(い)み清められていること。 (2)勢いの激しいこと。威力が強いこと。 ---------------------------------------------------------- いつ・いち【厳】 → 「いちはやぶる」 → 枕詞の「ちはやぶる」 例えば厳島(いつくしま)神社のある厳島(いつくしま)は、 「イ」の横溢する島。と、ことばの音から感じられる。 同時に、厳島(いつくしま)という言葉の中に「イ」があるのだという感覚。 ・2008-10-03 中世の人の感性 元来、日本の「イノリ」(祈り)とは、 抽象的な神に敬虔な願いを捧げるような新しい祈りでなく、 たけだけしい「イ」を宣(ノ)る強い行為であったこと。 ・2010-06-05 中世芸能の発生 320 祈(イノ)リ イ罵(ノ)り このように古い時代の「イノリ」は、 強い行為によって効果の伝染を期待する身体的実感を元にした行為で。 それは、自分から分離した遠ところにある抽象的な神などの存在に祈るものでなく、 イノリの対象が自分とつながっているという、 自他が分離していない、したがって伝染する、という 身体的実感に基づくものであったことがことばや歌からもわかる。 他、「イ」の性質を含む行為の例 斎(い)む 忌(い)む 祝う 呪(いは)う ・2010-02-06 中世芸能の発生 270 イハフ ・2010-02-07 中世芸能の発生 271 イハフ言葉 イハフ行動 ・2010-02-08 中世芸能の発生 272 マツル ・2010-02-09 中世芸能の発生 273 イム ◆ イチ の 「チ」 ・2012-02-14 中世芸能の発生 426 道(ミチ)のチ ・2010-02-11 中世芸能の発生 274 イノチ ユリの花 漢字より前からの古い時代の「チ」の音を含む語、例えば 「ミチ」(道)、「チ」(血)、「チチ」(乳)、「ヲロチ」(大蛇)、「イノチ」(命)、等々は、 「チ」の音のあらわす種類の性質を内蔵するという感覚に基づき 「チ」の一音節を語根としたことば。 イノチ」は「イ」の「チ」であって、 「イ」は生命、「チ」はチカラ(力)。 例えば「イカツチ」(雷)は「イ」変化の「イカ」つ「チ」。 「カグツチ」は「カグ」つ「チ」。 「チ(血)」「チチ(乳)」「ミチ(道)」「ヲロチ(大蛇)」他、 これら名詞は生命力・霊力をしての「チ」の性質を内蔵するという観念に基づく。 また「チカラ(力)」は「チ・カラ」で、「カラ」はウカラ・ヤカラのカラと同じ。 つまり「チカラ」は「チ」そのもの、霊力・霊威の観念を顕す語とみられる。 昔、租稲・租税を「チカラ」と言った。(例:主税寮 ちからのつかさ) 今も秋祭りでその年の初めの収穫を神前に奉ずるが、 それは最も「チ」に満ちていると考えられていた最初の収穫を神(王)へ捧げ、 繁栄を願う(イハフ)行為だった。 「チ」を語根とする動詞の「チハフ」は、「チ」の恩恵的な働きを意味する。 また「チハヤブル」は、「チ」が烈しく活動する意で、 「チ」には、恩恵的な働きと、破壊的な働きとの両面がある。 語源的には、 チは、力そのもの。 静でない動的なありかた、チの性質そのものがチ。 イチの分配。厄除けのおまんじゅうの分配。去年の市。 ・2012-02-15 中世芸能の発生 427 厄除けのおまんじゅうの分配 ・2012-02-12 中世芸能の発生 424 市(イチ)
by moriheiku
| 2013-02-09 08:00
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