立ち話




この駅のホームは日差しがあってまだ暑いから、
次の電車が来るまで、風が通り抜ける改札の外に立っていた。

反対方向の電車が止まり、
改札を出てくる人たちの中に一人のおばあさんがいて、私の隣に立たれた。
タクシーに乗られるのかな?



おばあさまは駅前の道のはす向いの和菓子屋さんに顔を向け
「あの和菓子屋で涼んでからタクシーに乗ろうか、歩いて帰ろうか」
まよっていらっしゃるとのこと。

私は電車が出たばかりで、次の電車まで風が通るここで待ってるんです、なんて話す。

うかがうとおばあさまのお家は歩いて15分くらい。
ご年配で杖をついていらっしゃるので、
この蒸し暑い中を15分も歩かれるのは大変だと思う。

立っているここも、風は通るけれどベンチはないから、
やはり和菓子屋さんで一度腰かけて、
お店の方にタクシーを呼んでいただいたほうがいいかもしれない。

「でもね、行くと買わなければいけないでしょう。
 あそこはおいしくないからねえ、いやだ」

え、そうなんですか?私はあのお店でお菓子を買ったことがないんです。

あそこは砂糖がいけない、
白いべとべとした砂糖を使っているに違いない、
とおばあさま。

おばあさまは普段、昔からのお砂糖を三種類使われているそう。
生まれてはじめて聞くお砂糖の名前。

おばあさまはこの○○線のうんと先で生まれた。
そこで昔から使われてきたものだそう。
それでつくると、おはぎも手にちっともべとべとしないけど、
白い砂糖で作るとべとべとしてねえ、という。
であそこのお菓子はいけない、と。


立ったままなのでいいかしらと気がかりだけれど、
そのままお話をうかがった。

今日は朝から隣県の○○市の眼医者さんへ行ってこられたそうだ。
近くの○○病院に通っていたけれどもちっとも良くならず、
薬も多くて、目がよくなるよりここがやられて。と、
手を胃のあたりにあてられた。

良いと聞いていた隣の県の眼医者さんに変わったら、
黄色い薬も半分に減って、ここもよくなったし。
ほら、こうして見ても、あそこまで見えるようになった。と。

それは私より見えていらっしゃいます(笑)。
私あのあたりの看板はぼやけて読めません。
お医者様で随分ちがうものなんですねー。

なてこと聞いていたり、


ご長男が暴○団と知り合いになってから長いこと、
毎晩呼び出しの電話がかかってきて出かけていた。

夜になるとあっちこちの健康ランドなんかから
こんな風に呼び出しがかかってくるのだと、
おばあさまはその呼び出しの電話の声、どなり声を真似られて、

健康ランド?私健康ランドに行ったことないんですけど、
健康ランドって、そんな、危ないんですか?

さあ。とにかく今日は○○市、今日は○○区の健康ランドに
警察と息子を連れ戻しに行ったり、
警察に行ったり警察が来たりしているうちに、
息子さんはあることに巻き込まれて、
身体障害者の一級になって、もう一人では動けない。

それで一人で動けないのに、私にまだこんな風にすごむよ。と
それもしてみせた。

あ、それは、すごくこわい。

こわいよ。
それに息子は近頃太って、LLが着られなくなった。

身体の大きいかただと、
介護するかたは起こすだけでもだいぶ力が要りますね。

そうよ。
なのにすごむんだ。

そうですか。
もう電話はかかってこなりましたか。

こないだかかってきてね。息子はこうなったって言ってやった。
そしたらそこからはまだかかってこないけど。

もうかかってこないといいですね。


おばあさまは黒いレースの長袖のブラウスを着ていらした。
お医者様から、腕のやけどのあとを日にあてないように、
黒の長そでがいいと聞いたのだと。
ほら、と肘までめくって腕を見せてくれた。

二男さんの哺乳瓶の準備をしている時、
肩から手の甲まで沸かした湯を浴びてしまったのだそうだ。

ああ時間がたって、
もうほとんどわからなくなりましたね。

医者もそう言ってくれるよ。
その時は着ていたのが昔の化繊だったから、ぴったり肌に貼りついてしまって、と。

若いお母様だったおばあさまは
病院へ行く前に一所懸命、湯をかぶったところに味噌を塗ったそうだ。

お味噌?お味噌を塗るといいのですか?
放射能除去に赤味噌と食べるといいと聞いたことはあります。

さあ、そういう風に聞いたことがあったから、
その時はとにかく味噌を塗った。

ご自身で塗られて。。痛かったでしょう。

その味噌でそれで跡が薄くなったと思うよ。



媒酌人にだまされて結婚した。
結婚したら話と違って、
○○港の貯木場の一番危ないところで働かされて苦労して苦労して。

ふむふむ。


他にも昔の習慣や、二男さんのこと、
子供のころ住んでいたところのこと、
旦那様と結婚してこれまでのこと、色々お話をうかがった。

そうですかー。
遠い眼科に通われるのは大変ですけど、大きい手術になるよりいいかもしれませんね。
息子さんやみなさんに頼りにされていらっしゃるから、手術もしていられませんねえ。

まあね。


反対側の踏切が鳴りだした。

来る電車に乗るんでしょう?

はい。

早く行きなさい。じゃあね。

それでは失礼します。お気をつけて。



指に小さい切り傷ができた「む」に、そういえば昨日
こうこうでおばあさまがやけどのところにお味噌を塗ったって言っていらした、と言ったら、

アンタ(もう!また私のことアンタと!)また?
よく聞くよね、知らない人の一代記。
たった10分ちょっとくらいでしょう。よくそれだけ話ができるね。


うん。なんか、よくお話されるよね。知らないかたの一代記。
でもそいういう方たち、ぜんぜんいやな感じしないの。
えっと驚くような内容がいっぱいあるんだけど、さっぱりしたもので。


そういう方々とはちがって、
吐き出そう、どこかに吐いてやろうとしてる人は、

遠目でもこう顔をそむけたくなる、うわっってするような
なんかあつかましいっていうか、むわっとするっていうか、そういう感じがあって
思わず避けるけど、

普段ねおばばさまたちみたいな思いがけなく話をうかが人たちって、
ふっと立ち寄って、ぱっと話される感じで、
ただこんなことがあったよ、っていうだけで。

吐がせろとか、自分へ良い評価をしろ、とかいうなまぐささはないから。

木の葉がさっとふれるような感じで、
重いことお話されても、みなさんさっぱりされてるの。



昨日のおばあさまも、
若いころは、気も強くてちゃきちゃきっとしていらしたかたなんだって、
お話される中で時々感じた。

長男さんにかかってくる電話の相手に、怖気ず返す口調や、
時々、杖をつかれた曲がった背中を、ぐーっと伸ばされて。
そんな時、目の奥がきらきらっとされて。
ああそういう若いころだったんだ、って。



すれ違う方たちのいろんな人生。
私はほんとうに平凡。






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