中世芸能の発生 399 九州新幹線全線開通 祝福



つづき


3月12日、九州新幹線全線開通。
お祝いのCMがテレビで放映されるはずだったけれど、
前日3月11日に大震災が起き、テレビ放映はされなかった。

間もなくネット上で公開されたこのCMを私も見て、
弱った心は励まされた。


先月、このJR九州 九州新幹線全線開通のCMが、
カンヌ国際広告祭金賞を受賞したニュースを聞いた。

うれしかったよ。

特別篇 180秒


アドギャラリー(CM) 九州縦断イベント

JR九州 九州縦断イベント


走る九州新幹線さくら。
犬も跳ねてる。
ちびっこ相撲の子たち。
レインボーカラーのひらひらする中に時折日の丸がある。



全線開通第一便、沿線は手を振る人が絶えなかったそうだ。

運転手さんは緊張感を持って運転されたと思うけど、
前を見て運転する眼の端に、
きっと、たくさんの手を振る人たちが映ったと思う。

たくさんの手を振る祝福の笑顔の中を走られたんだと思う。
運転手さん、うれしかったんじゃないかな。
よかった。



開通に様々な問題や過程があったとしても。


九州新幹線全線開通のお祝いのコマーシャル。


祝福というのは、こんなに心を動かし、励ます。

理屈じゃなく。

心身は揺さぶられて、祝福に満ちる。

何かはわからないけど力がわいてよみがえる。






古い日本の芸能は、祝福の筋だったことを思う。

長い時代を生き残ってきた中で様々な意味を持って、
今では偉くなり芸術になった歌舞伎や能楽も、

もとより名も残らない広く民間にあった芸能も、
根底にたまふり、ことほぎの祝福芸がある。


戦前まで一般的だった正月の門付けの万歳(まんざい)や
現在もおせち料理の由来にも見えるような古いの予祝・祝福の習俗は、

哲学的体系を持った高尚な思想のものではないけれど、
だから一段下のつまらぬものに思われた面もあったけれども。

時代とともに原型を忘れるほど複雑化した、
これら古い祝福の習俗の、その原型は、

九州新幹線全線開通のCMを聞く心にも共通する
ごくシンプルな、

よろこびの音色につられて、心身がわくような、

祝福に命が活気づけられる素朴な実感だったと思う。


それは、高度な思想以前。
命の、生の根元に近いものなのだと思う。





この頃は、古い筋の芸能の底にある祝福は、
すっかり忘れられているようにみえる。

芸能について語る時、
ストーリーや型あるいは演者の技量や表現ばかり多く語られる。

平和ということかもしれない。



私は、やはりたまふりからつながる祝福芸は、
もとは命の際(きわ)にあった芸だったのだと思う。

古い祝福の習俗は、
命を振って活気づけないではいられなかった人々のもの。

生死を身近にして、
祝福があまねく満ちることを願わずにはいられなかった、
この土地の、無数の人々に続いてきたもの。

命の際(きわ)の実感に生きていた人たちのしてきた芸。

人々はイノチの実感を生きていたのだと思う。




だから、
誰の筋がエライとか誰は有名とか、私には重要でない。

誰かの心情の吐露にも興味がない。

芸能と芸能の人たちに私が見るのは、結局
無数の人々のイノチを揺らしてきた祝福が後ろにあるのかどうかだけ。
なのだと思う。


時代ごとの花を咲かせた芸能の進化と、
高度な技術の輝きに心を打たれるけれども、
最終的に、たまふりの、ことほぎの、
祝福の底から離れた芸術に興味は持てない気がする。




身近な誰かの幸が多かれと願う、
無数の誰かの、海、山、川、草木、全てのものの過去も未来も
幸多かれと祝う、
その背景には、生への真摯さがある。


私はいつも素朴な身体の感じる自然の感触に戻ろうと思う。


ただただ命の際(きわ)の祝福にふれたいと思う。







・2011-06-19 中世芸能の発生 400 遊び 神楽
・2011-08-07 中世芸能の発生 404 祭り 御霊会 たまふり 鎮魂
・2011-08-08 中世芸能の発生 405 健全なボディーを作ること



・2010-12-01 中世芸能の発生 368 今様


・2009-02-11 中世芸能の発生 67 船の上の遊女 お能『江口』


・2010-08-29 中世芸能の発生 351 神「を」祈る 宗教の瞬間 他力本願




古い芸能の土壌
・2009-05-25 中世芸能の発生 133 俗の土壌


・2010-09-02 中世芸能の発生 353 ことほぎ 自然


・2010-02-03 命の全体性


・2010-10-12 中世芸能の発生 358 扇の民俗 ケヤキ



・2009-09-23 中世芸能の発生 203 狩猟 採取
・2011-03-27 祝福



祝福のことば 祝福をする人 歌
・2010-02-15 中世芸能の発生 296 ヨム 和歌を詠む(よむ) 芸能
・2010-02-14 中世芸能の発生 295 奄美のユミグトゥ(ヨミゴト)


・2009-12-17 中世芸能の発生 267 一つ松 声の清きは




日本の古いことほぎの伝統。そのおまじないのような祈りの習俗。

ことほぎは、自然に寄せてイノチが盛んで栄えることを祈る。
横溢する自然の命の祝福がイノチに反映するように願われた。

ことほぎの特長は、
周囲と無関係に個人を祈るものではないということ。

つながりあっている森羅万象、国土草木(山川草木)、全てのイノチが、
共に盛んであればこそのもので、
共に盛んで長く栄えることを祈る共栄の思想に基づく。

これは抽象的で体系化された思想ができるより前の、
自然で素朴な、身体的な共感の感覚に基づくいている。

その根元にあるものは、
今も我々が感じる、
横溢する生命力にふれる時に感じる祝福感であっただろうと思う。

天台本覚論も君が代も、
日本の思想の底に共通して流れているこの太い水流を語られることは
なぜないのだろう。

・2010-06-20 中世芸能の発生 329 祝福の系譜
・2009-08-01 中世芸能の発生 182 芸能の始め
・2009-12-09 中世芸能の発生 261 たまふり たましづめ 鎮魂
・2010-12-12 中世芸能の発生 376 遊びをせんとや生まれけむ




ひらひらするもの ハタ 幡 ヒレ

現代だって、九州新幹線全線開通のお祝いのコマーシャルだって、
旗やひらひらするものを持って手を振る

・2010-02-14  中世芸能の発生 281 青幡(あをはた) 旗 幡 ハタ
・2010-02-20 中世芸能の発生 287 ヒロメク 蛇 剣
・2010-02-19 中世芸能の発生 286 ヒレ ヒラ ヒレ有る骨柄



・2011-01-27 中世芸能の発生 379 根元



・2010-05-14 中世芸能の発生 309 はやし はやす
・2010-08-16 中世芸能の発生 338 メモ
・2010-07-07 中世芸能の発生 335 固有名詞にならないもの
・2010-02-21 中世芸能の発生 288 自然 身体 実感



大伴家持。この人は際(きわ)の心だったのだと思うのだ。私の好きな人。
・2009-03-17 「奈良の世の果ての独り」
・2009-12-12 中世芸能の発生 264 いや重(し)け吉事(よごと)



・2009-03-01 草の息





イノチ 祝福
・2011-08-18 中世芸能の発生 410 生命の連鎖 歌から掬(すく)いとる方々
「命っていうのは、やっぱり生き物を見ていますとね。みんなつづいていこう、つづいていこうって一所懸命生きてるなって思うんです。それはもちろん死というものもあるんですけど、なんか自分だけじゃなく、他の生き物たちも含めてつづいていってほしい、っていう、そういうことがみんなの生き物の中にこう、こもってる。」

そうした行動が、人間だったら、歌や、花を植えるとか、そういう行為で、
それが生き物としての人間の表現、

と、おっしゃって、
そういう意味でもこの歌を素晴らしい、と中村さんは思われたそうだ。

日本の信仰というか、信仰ともいえない、謂わば民俗の底には、
自然という水流がずっと続いていると私は思う。

それは個人の教祖や教義など、つけようもないもの。
体系的でも哲学的でもない、
自然の実感としかいえないようなものだ。

中世芸能が生まれるまでの、
芸能と宗教と分化していない古い日本の芸能は、
自然に寄せてヨ(イノチ)をことほぐ、祝福の系譜だ。




つづく
by moriheiku | 2011-06-18 08:00 | 歴史と旅
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