中世芸能の発生 353 ことほぎ 自然



つづき


・2010-08-30 中世芸能の発生 352 滝 木綿花


万葉集に、
白くさらしたふっさりした木綿(ゆふ ゆう)が、木綿花と言われて
滝の飛沫に例えられることには、心が躍る。


急流を駈ける水が
岩にあたって白い木綿(ゆふ ゆう)の花のように咲きつづけるうつくしさは、
自然のエネルギーそのもの。


万葉人の目に、ふっさりした白い木綿(ゆふ ゆう)が振るわれる姿は、
そのように映っていたのだなあ。



上記の歌は、詠み人の感慨であると同時に、ことほぎ。

言わなくてもことばの中に自然のイ(威)があり、
これまでも、これからも、くりかえし咲きつづけるイノチの祝福がある。



万葉人が見飽きないと歌に称えた泊瀬吉野の滝の木綿花(ゆふはな)。

今も山間を駈けくだる水を見れば、
その音に、細かくあたる水飛沫に、山と水の匂いに、木綿花のように咲きつづける水に、
心は躍って(激(たき たぎ))って息を吹き返す。




山に行きたい。




・2011-03-03 中世芸能の発生 385 石走(いはばし)る垂水(たるみ) 祝福



日本人の命の概念。日本の信仰の流れ。
・2013-02-06 日本の命の概念
日本の古来の命の考え方は、
大陸から入ってきた命の考え方とは違う。

大陸的な考え方では、命はもっぱら動物、また植物の生命のことを指す。
(今は日本人にもこれに近い考え方だろうか。)

古来の日本の命は、
その生命力、圧倒的な力、横溢するエネルギーのことを、命と感じていた。

したがって昔の日本では、山にも岩にも命がある。
滝も水の流れも、風も、命そのものだ。
光も、音も。何かの中におこる力や性質自体も。


ごく古い時代の日本のこうしたイノチの感覚がやがて、
日本における精霊やタマの概念になり、日本における神の概念になり、
仏教が入ってからは民俗信仰と習合した仏の概念になっていった。

かつて命はエネルギーのようなものに概念されていたので、
古い時代の日本では、命の概念で生物と無生物は分かれない。

したがって日本では、
森羅万象に命があり、森羅万象に神が宿り、
岩にも木にも仏がいるという理解になっていった。
日本の信仰の流れ。




・2010-02-11 中世芸能の発生 274 イノチ ユリの花
・2010-02-04 中世芸能の発生 268 古代における聖性とは
・2010-10-12 中世芸能の発生 358 扇の民俗 ケヤキ



息子の幸いを、木綿垂を振って祈っていた母。
・2010-08-27 中世芸能の発生 350 神「を」祈る 神「を」祈(の)む


和歌 ことほぎ 芸能
・2010-02-15 中世芸能の発生 296 ヨム 和歌を詠む(よむ) 芸能


薬 呪術
・2010-05-15 中世芸能の発生 310 くすり 呪術


花見 (山見、鳥を見ること、国見) の習俗
・2011-02-24 中世芸能の発生 382 ビターオレンジ ダイダイ(橙)




谷の水音滔々と  たき(激 滝 瀧 たぎ)つ心
・2008-09-26 水波之伝
このお能の作者が最も心を動かしているのは、
楊柳観音菩薩でもなく山神でもなく、
作者の心を動かしているのは、
峰の嵐や 谷を駆け下る水の音、滝の音だと思う。
それはきっと古い芸能の根元だ。


・2011-01-27 中世芸能の発生 379 根元
沢の水

・2010-02-03 命の全体性



渚に寄せる水
・2012-01-20 中世芸能の発生 421 若水 渚に寄せる水



これまでも、これからも、くりかえし続いていく自然の命の力  ことほぎの歌
・2009-12-17 中世芸能の発生 267 一つ松 声の清きは



・2008-08-13 「ほ」を見る。



倭文(しつ しづ しず) 木綿(ゆふ ゆう) 栲(たへ たえ) 
・2010-08-19 中世芸能の発生 341 倭文(しつ しづ しず 倭文織)

・2010-08-24 中世芸能の発生 346 しづやしづ しづのをだまき くりかえし



・2010-05-17 中世芸能の発生 312 ことばの神聖視
・2009-08-15 中世芸能の発生 186 朗詠調



・2010-06-20 中世芸能の発生 329 祝福の系譜


・2010-12-12 中世芸能の発生 376 遊びをせんとや生まれけむ

・2011-06-19 中世芸能の発生 400 遊び 神楽





文字より前からある言葉は、
文字の意味でなく、音でとらえると、いろんなことが感得できる。
大きくとらえられ応用できる。

ことばを、
文字にせず、音としてとらえるとき、

知識としてでなく、
そのことばの含む重層的な感覚が、
体に染みて、透っていくようだ。
昔の人々の感覚も。

・2007-04-18 はやし


・2007-09-19 ヨリシロ


・2011-09-05 中世芸能の発生 412 キ(木) 毛(ケ) キ・ケ(気)
・2011-09-06 中世芸能の発生 413 ことばと植物




・2009-03-01 草の息




つづく
by moriheiku | 2010-09-02 08:00 | 歴史と旅
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