つづき 仏教で和歌がうとまれた理由は、 和歌が日本の神々に親しいものだったから、 和歌が無常の自然や人の心に親しいものだったから、 和歌が、心を動かすものだったから。ではないか。 ・2010-05-18 中世芸能の発生 313 やまとことば 和歌は仏教側から見て 古来の民俗信仰の迷妄と思われるものと深く結びついていたし、 仏の真理をやまとことばに置きかえてわかりやすく語ることは、 置き換えた時点で、仏の本質から離れることにつながっただろう。 仏教では、 目や耳にうつるものはみな空(くう)、無常であり、 仏の真理だけが、常住、生滅変化しない真実とされる。 無常であるものを歌うことは狂言であり綺語である。 仏教は、空を知って仏の真理にいたるものなのに、 無常のことがらにいたずらに心を動かし、ことばを飾って歌を詠むことは、 仏の道に背き、仏の真理に遠ざかるもので、 和歌は仏教から狂言綺語と退けられた。 純粋な渡来の仏教に近づこうとするほど、 古来の民俗はまぼろしや迷信に満ちた世界になる。 仏教と和歌のせめぎ合いは、 渡来の仏教と、仏教以前の日本の古い民俗のせめぎ合いでもある。 和歌、今様に見える、その解決のひとつ。 『梁塵秘抄』 ---------------------------------- 狂言綺語の誤ちは 仏を讃(ほ)むるを種として 麤(あら)き言葉もいかなるも 第一義とかにぞ帰るなる (222) (現代語訳) 戯れのことばや飾りたてたことばで作った文学の営みはまちがったしわざだが、それも仏法を讃嘆する機縁となしうる。また荒々しいことばやどんなことばでも、みな仏法の真理に帰一するということだ。 文芸即仏法の考えを、今様に仕立てたもの。後白河院も長年の今様修行を経てこの信念に達し、『梁塵秘抄口伝集』巻十にその旨を述べている。 前半を『和漢朗詠集』仏事の白楽天の漢詩「願ハクハ今生世俗ノ文字(もんじ)ノ業狂言綺語ノ誤リヲモツテ翻(かえ)シテ当来世々讃仏乗ノ因転法輪ノ縁トセム」により、後半を『涅槃経』巻二十の「諸仏常二柔語ス。衆ノ為ノ故二麤(そ)ヲ説ク。麤語及ビ軟語皆第一義ニ帰ス」による。『古今目録抄』料紙今様にも所収。 ---------------------------------- (『完訳 日本の古典 34 梁塵秘抄』) 仏を賛美するものとしての和歌のありようも、 外国語の仏の真理をわかりやすく(軟語)やまとことばで語るのも、 どんなことばで仏法をかたりつたえるのも、みな仏法の真理に帰一する。 ってこの今様歌謡は歌う。 麤(あら)き言葉。鹿が三つであらい。 ああ深いな。。 麤(あら)き言葉は、渡来の仏教の元々の言葉でないことば。 麤(あら)き言葉は、この土地のことば。古来のことばの意を含んでる。 麤(あら)き言葉は、まるで 土地の草木を原料に織られた昔は神聖とされた粗い織り物の 倭文(しづ)のあり方のようだ。 本来、芸能の人々はたまふりの人々。 心をゆさぶり生命を活気づかせる人々だった。 それは仏教では無常であるものに心をいたずらに動かすことであるから、 一見、仏教の空(くう)の思想と反する。 常住の、仏の真理と逆のこと。 『梁塵秘抄』をまとめた白河院が、今様即仏道、と言う。 芸能は仏法の真理へ至る方便になる。 この歌は唱導のにおいがする。まるで唱導を聞くようだ。 そしてこの歌は、 仏教以前からの、日本の古い民俗信仰の流れにある芸能の人々も、 即ち仏徒であるということの、根拠と自覚のことばだ。 この歌は、当時の、矛盾の中に立つ多くの人々の願い。 仏教より前の民俗信仰 ・2009-12-09 中世芸能の発生 261 たまふり たましづめ 鎮魂 ・2009-08-01 中世芸能の発生 182 芸能の始め ・2010-02-15 中世芸能の発生 296 ヨム 和歌を詠む(よむ) 芸能者と和歌 和歌と芸能者 ・2010-05-14 中世芸能の発生 309 はやし はやす はやしとたまふり 忘れられてしまったこと ・2010-05-05 中世芸能の発生 304 仏塔 心柱 刹柱 ・2009-12-17 中世芸能の発生 267 一つ松 声の清きは ・2010-03-16 中世芸能の発生 297 土地の木 仏教の日本化 ・2009-05-28 中世芸能の発生 136 優しい誤解 ・2009-05-26 中世芸能の発生 134 芸能の担い手 ・2009-05-25 中世芸能の発生 133 俗の土壌 ・2009-05-27 中世芸能の発生 135 伝統芸能の土壌 古来の信仰に連なる人たちの罪悪感 いとほしや ・2009-02-11 中世芸能の発生 67 船の上の遊女 お能『江口』 ・2010-06-22 中世芸能の発生 331 罪業感 今様 ・2009-09-06 毎年に鮎し走らば ・2009-09-23 中世芸能の発生 203 狩猟 採取 ・2010-08-17 中世芸能の発生 339 差別の始め 和歌と仏教シリーズ ・2010-05-16 中世芸能の発生 311 狂言綺語 ・2010-05-17 中世芸能の発生 312 ことばの神聖視 ・2010-05-18 中世芸能の発生 313 やまとことば ・2010-05-19 中世芸能の発生 314 仏教が和歌を退けた理由 ・2010-05-20 中世芸能の発生 315 仏教と和歌の習合 ・2010-06-18 中世芸能の発生 327 ことば 倭文 薬 捨身 自然のイノチとの一体化 ・2010-06-21 中世芸能の発生 330 主客の分かれないところ 宗教の原型 神仏習合思想 リンクまとめ ・2011-07-22 中世芸能の発生 402 神仏習合思想にあるもの 神仏習合の底に流れているもの つづく
by moriheiku
| 2010-05-21 08:00
| 歴史と旅
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