水の香



谷からのぼってきた山藤の花に、
手を伸ばしたら届きそうで、
身をのりだした。


ああ、あぶない。落ちたら私、死んでしまう。


それでも身体を伸ばして
鼻に寄せたひと房の藤の花は、
藤色の香水のように強く香った。



見上げる木々をおおって
滝のように広がる爛漫の山藤の花に、
花の精を見た昔の人の気持ちもわかる。




花はここに居るものだからと、
三日前にはもらわなかった房の中の一片の花弁を、
今日はひとひらちぎって、持って山を下りた。


ごく小さなガラスのボールに水を一匙入れて花弁を浮かべた。

木の命を自分のために持ち帰った罪悪感と共に、見ている。



水の上の一片にも香る花は、あれほど集まって、
新緑の山の、水の香りを甘くしている。









青い花
・2009-06-04 クレマチス
・2008-04-29 アヤメ
・2008-05-06 夏の模様
・2010-05-04 青い花
・2008-03-16 境内





山藤
・2008-04-30 山の紫
・2008-04-17 蘇芳
・2009-04-27 古い山



・2008-06-16 山の音
・2008-06-17 山の記憶
・2008-06-18 スポンジ



・2009-04-28 山の匂い

・2008-06-30 岩肌
by moriheiku | 2010-05-06 08:00 | つれづれ
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