つづき ユミグトゥ。「ヨミゴト」の南島方言。 “奄美諸島の与論島では、赤ん坊が生まれると、産婦の母親が青竹の小刀で臍の緒を切って産湯を浴びさせ、それが終わると、用意しておいたカラ竹、阿旦、サァラギ(トゲのある蔓草)を束ねて、赤ん坊の枕元にある机の上に載せ、次のようなユミグトゥ(「ヨミゴト」の南島方言)を唱える。 ウラカティ クレェ付(チ)キラン 木ヌムヌ クサグサヌムヌヌ 出ヂティ 来(ク)ウヌ如(グトウ) カラ竹ヌ 節(ブシ)々ヌ如 伸(ヌ)ビリ 阿旦(アダニ)ヌ如 島ヌ垣成リ サァラキヌ如 広(ビル)ガティ ニギ出ヂリ 泣キヨオ 泣キヨオ (お前に対して位をつけてあげよう。木の精霊、いろいろの精霊が出て来ないように。から竹の節々のように、成長しなさい。阿旦が島を取巻いて守っているように、島を守りなさい。サァラキのように広がって成長しなさい。泣きなさい。泣きなさい。) 右の「クレェ付(チ)キラン」は、霊力を着けてあげようという意味で、「木ヌムヌ」以下がその呪詞であるが、カラ竹、阿旦、サァラキなどの植物を呪物として、それに「寄せ」て成長を促すコトバを並べ立てているのは、古代の寿詞や歌謡に普遍的な「寄物陳思」的方法の原型といえる。” 土橋寛『日本語に探る古代信仰』 こんな言葉を文字に打つと、 ユミグトゥ(ヨミゴト)にひびく、純粋な、 赤ん坊が元気に育つことを願う気持ちが移って、涙が出る。 ムヌはモノなんでしょう。 木ヌムヌ クサグサヌムヌ 木のもの くさぐさのもの。 心とまっすぐな純粋なことばは、 こちらの心へもまっすぐにつながる。 先に打ったが、 「よ」 ということば。 世 代 夜 黄泉(よみ) 常世(とこよ) 詠む(よむ) 寿詞(よごと) 暦(こよみ) 他・・ 「よ」の音に感じられるのは「時」。 時に関わる感じがする。 ただ「時間」のことでなく、 命とむすびついている「時」の感じ。 これら古い和歌や詞章に使われた「よ」には、 くりかえしくりかえしつづいていく時のイメージが重なっている。 ずいぶん昔の「よ」は、 現代のように時刻や、刻々と刻まれる時間でない。 再生しつづける永遠の時のイメージで、 それは「命」のことだ。 ユミグトゥ(ヨミゴト)は、 呪術の意識を持ってことばと呪物が用いられているけれども、 この奄美のとなえごと、ユミグトゥ(ヨミゴト)の底に、 自然に唇をついて出る、永遠の命の栄えを称えることばを感じる。 生と死をくりかえしくりかえしつづいていく 自然 祝福 ・2011-02-16 中世芸能の発生 380 輪廻 遷宮 遷都 ・2010-08-24 中世芸能の発生 346 しづやしづ しづのをだまき くりかえし ・2011-03-15 自然 ・2011-02-16 君が代 02 狩猟。栽培とは違う、くりかえす自然のイノチのチカラめでたさを得る。 ・2009-09-23 中世芸能の発生 203 狩猟 採取 ・2009-09-06 毎年に鮎し走らば ■芸能者の役割 ヨム人々 ホグ人々 芸能 ヨゴト 命の再生 ・2010-02-15 中世芸能の発生 296 ヨム 和歌を詠む(よむ) 芸能 ・2009-12-09 中世芸能の発生 261 たまふり たましづめ 鎮魂 ・2011-06-19 中世芸能の発生 400 遊び 神楽 ・2012-02-16 中世芸能の発生 428 「ホ」 穂(ほ) 寿(ほ)ぐ 誉(ほ)む 言祝ぎ(ことほぎ) ■芸能の役割 後世の芸能にもまだ描かれる、死と再生の物語 ・2009-07-07 中世芸能の発生 166 死と再生の物語 自然に寄せて歌を詠むこと ・2010-02-10 寄物陳思 ・2010-02-03 命の全体性 ・2009-03-01 草の息 古い時代の祈り 類感 自然と人の共感 神仏を媒介しない古来の呪術意識 ・2009-12-11 中世芸能の発生 263 ほうほう蛍 まじないのことば ・2009-12-13 中世芸能の発生 265 田児(たご 田子)の浦ゆ ・2009-12-17 中世芸能の発生 267 一つ松 声の清きは ・2009-12-07 中世芸能の発生 259 類感 感応 ・2010-02-11 中世芸能の発生 274 イノチ ユリの花 ・2010-08-18 中世芸能の発生 340 母語 ヨのシリーズ ・2010-02-12 中世芸能の発生 293 ヨ ・2010-02-13 中世芸能の発生 294 よごと 寿詞 ・2010-02-15 中世芸能の発生 296 ヨム 和歌を詠む(よむ) 芸能 ・2010-04-01 中世芸能の発生 298 言語の幹や根 芸術言語論 ・2010-04-02 中世芸能の発生 299 ことばの発生と本質 ・2010-04-03 中世芸能の発生 300 俳優(わざおぎ) 神態(かみぶり) 流浪する芸能者 ・2010-04-04 中世芸能の発生 301 歌の音 切実な願い イノリ ・2010-06-04 中世芸能の発生 319 宜(ノル) 祝詞(ノリト) 法(ノリ) 呪(ノロフ) ・2010-06-05 中世芸能の発生 320 祈(イノ)リ イ罵(ノ)り ・2009-05-13 中世芸能の発生 131 だだ 足踏み ・2010-03-16 中世芸能の発生 297 土地の木 ・2010-06-21 中世芸能の発生 330 主客の分かれないところ 宗教の原型 和歌の中の祝福 これらの和歌は詠み人の感想文ではないこと ・2010-09-02 中世芸能の発生 353 ことほぎ 自然 ・2010-08-30 中世芸能の発生 352 滝 木綿花 木(キ) 植物 ・2011-09-05 中世芸能の発生 412 キ(木) 毛(ケ) キ・ケ(気) ・2011-09-06 中世芸能の発生 413 ことばと植物 ・2011-08-18 中世芸能の発生 410 生命の連鎖 歌から掬(すく)いとる方々 「命っていうのは、やっぱり生き物を見ていますとね。みんなつづいていこう、つづいていこうって一所懸命生きてるなって思うんです。それはもちろん死というものもあるんですけど、なんか自分だけじゃなく、他の生き物たちも含めてつづいていってほしい、っていう、そういうことがみんなの生き物の中にこう、こもってる。」 そうした行動が、人間だったら、歌や、花を植えるとか、そういう行為で、 それが生き物としての人間の表現、 と、おっしゃって、 そういう意味でもこの歌を素晴らしい、と中村さんは思われたそうだ。 日本の信仰というか、信仰ともいえない、謂わば民俗の底には、 自然という水流がずっと続いていると私は思う。 それは個人の教祖や教義など、つけようもないもの。 体系的でも哲学的でもない、 自然の実感としかいえないようなものだ。 中世芸能が生まれるまでの、 芸能と宗教と分化していない古い日本の芸能は、 自然に寄せてヨ(イノチ)をことほぐ、祝福の系譜だ。 つづく
by moriheiku
| 2010-03-14 08:00
| 歴史と旅
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