つづき 万葉集 巻第二十 四五一六 新(あらた)しき年の始(はじめ)の初春の今日降る雪のいや重(し)け吉事(よごと) (4516) 三年春正月一日、於因幡國廳、賜饗國郡司等之謌一首 新 年乃始乃 波都波流能 家布敷流由伎能 伊夜之家餘其騰 右一首、守大伴宿祢家持作之。 三年の春正月一日に、因幡国(いなばのくに)の庁(ちやう)にして、饗(あへ)を国郡(くにのこほり)の司等(つかさら)に賜へる宴(うたげ)の歌一首 新(あらた)しき年の始(はじめ)の初春の今日降る雪のいや重(し)け吉事(よごと) 右の一首は、守大伴宿禰家持作れり。 新しい年のはじめの、新春の今日を降りしきる雪のように、いっそう重なれ、吉き事よ。 天平宝字三年(795)。 国司(国守)として因幡国に赴任していた大伴家持が、 年頭に郡司らを集めて催した宴の席で詠んだ。 新春国司が郡司らを集め宴席を催すのが慣例。国司新年の任務。 歌はその折の寿歌。 元日の雪は豊年の瑞祥と考えられていた。 国守は寿歌を詠むことになっていた。 歌は祭主のするめでたい唱えごとだ。 万葉集を紹介するテレビ番組で、 歌人の俵万智さんが、この歌を紹介されていた。 俵さん。 「新しき年の始めの今日降る雪のように、いっぱいいっぱいいいことがあってほしい。ことばが、本当にその言葉分の重みで、充実しきって五七五七七の中で納まっている。千年以上たった今よんでも本当にすっと心に入ってきますね。」 「因幡の国へ行くっていうのは、やや左遷気味の人事だから、そんなに嬉しくはなかったと思うんですけれども、でもその中で、あえて“いや重(し)け吉事(よごと)”っていうふうに言ってしまう。口に出してしまう。そのことによって、逆にそのよごとがこっちにやってくるっていうのかな。ことばってそういう力があると思うんですね。」 「最初にこういう事実があるから、それを見て言葉で写すっていうそれだけじゃなっくって、まずことばにしてしまうことで事実を引き寄せるぞ、そういう気持ちも、多分にあったのではないかなと思います。」 信仰はないという人が、 今年の目標は、口に出して言うことが大事、 それも「○○したい」ではなく「○○する」と言い切るのが大事、 と言う。 なぜなら、 願望を口に出すことで自分の注意が高まり、 願望につながることを察知しやすくなるから、 だと言う。 それは、遠い昔の哲学的な宗教以前の呪術と、何が違うのですか? 科学的な理由があるからと思うからですか。 俵万智さんがこの歌におっしゃったこと。 「ことばが、本当にその言葉分の重みで」。 この歌は、 家持がそれまでに詠んだ初春の寿歌よりもっと。余計のない、 直接的な、祈りに満ちた ことばの発動であったと思う。 参考:中西進著『万葉集(四)』 ・2009-12-11 中世芸能の発生 263 ほうほう蛍 まじないのことば ・2009-12-13 中世芸能の発生 265 田児(たご 田子)の浦ゆ ・2009-03-17 「奈良の世の果ての独り」 和歌を「詠(よ)」む。とは。 ・2010-02-12 中世芸能の発生 293 ヨ ・2010-02-13 中世芸能の発生 294 よごと 寿詞 ・2010-02-14 中世芸能の発生 295 奄美のユミグトゥ(ヨミゴト) ・2010-02-15 中世芸能の発生 296 ヨム 和歌を詠む(よむ) 芸能 「よ」 ということば。 世 代 夜 黄泉(よみ) 常世(とこよ) 詠む(よむ) 寿詞(よごと) 暦(こよみ) 他・・ 「よ」の音に感じられるのは「時」。 ただ「時間」のことでなく、 命とむすびついている「時」の感じ。 古い和歌や詞章に使われた「よ」には、 営々と栄えつづける時のイメージが重なっている。 ずいぶん昔の「よ」は、 現代のように時刻や、刻々と刻まれる時間でない。 繰りかえし再生しつづける 永遠の時のイメージで、 それは「命」のことだ。 (略) また、和歌を作ることを「ヨム」というのは、 「ヨム」という動詞は「寿ぐ」と同じ意味の語であり、 和歌の根源ないし代表が、 「ヨミ歌」(祝歌)であったことに基づいていると述べる。 古代の歌にある性質、祈りのようなものを感じる時、私は、 和歌の根源、ないしは和歌の代表が 生命をほぐ「ヨミ歌」(祝歌)であったということは、まことと思う よごとと和歌 ・2008/07/28 芸能の発生 古代~中世 02 ことわざと歌 ・2008/07/28 芸能の発生 古代~中世 03 和歌とよごと ・2009-03-26 中世芸能の発生 93 歌の展開 ・2008/07/29 芸能の発生 古代~中世 04 和歌と祝詞 ・2008/07/29 芸能の発生 古代~中世 05 和歌 祈から感情へ ・2010-06-04 中世芸能の発生 319 宜(ノル) 祝詞(ノリト) 法(ノリ) 呪(ノロフ) ・2010-06-05 中世芸能の発生 320 祈(イノ)リ イ罵(ノ)り ・2009-05-13 中世芸能の発生 131 だだ 足踏み ・2009-10-22 中世芸能の発生 227 神樂 万葉集 類感 呪術・宗教のはじまり ・2009-12-06 中世芸能の発生 258 マナ 原始宗教 ・2009-12-07 中世芸能の発生 259 類感 感応 ・2009-12-08 中世芸能の発生 260 呪術・宗教と身体感覚 ・2009-12-09 中世芸能の発生 261 たまふり たましづめ 鎮魂 ・2010-05-14 中世芸能の発生 309 はやし はやす ・2010-03-16 中世芸能の発生 297 土地の木 ・2010-06-21 中世芸能の発生 330 主客の分かれないところ 宗教の原型 ・2011-06-19 中世芸能の発生 400 遊び 神楽 ・2010-08-25 中世芸能の発生 348 神「を」祈る 融通念仏 私は大伴家持が大好き。 万葉集。家持の歌 ・2009-09-10 時の花 ・2009-09-09 清き瀬を馬うち渡しいつか通はむ ・2009-09-06 毎年に鮎し走らば ・2009-09-07 珠洲の海 かわいそうたぁ、すきだってことよ。 ・2010-02-12 中世芸能の発生 276 花の命 つづく
by moriheiku
| 2009-12-12 08:00
| 歴史と旅
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