中世芸能の発生 187 和琴


つづき


大歌の神楽歌の合間に、和琴がひとなで通る。

和琴は、今は わごん と読むが、
本来 こと あるいは みこと と言う。
今も特別な楽器だ。


現在の和琴は桐製が多いようだ。
古い出土品でスギの類のものを見かけるが、
多く出土している和琴の木の種類とその割合は知らない。



弥生時代や古墳時代の遺跡から出土する琴に、
板を箱形に組んだ共鳴体付きの琴と、
一木をくりぬいた板の琴がある。

一木をくりぬいた板の琴が、
和琴(わごん みこと)の原型と考えられる。


同時期に同場所で両方のタイプがあった。
製作方法の違いは技術の問題でなく、
一木をくりぬいて作るのは
意図があってそうされたのではないだろうか。



和琴は、その特徴から、
後の外来楽器の影響も受けつつ
比較的新しい外来の琴(筝)とは別系統で発達した、
数少ない日本古来の楽器と考えられている。

祭祀跡からミニチュアの琴が発掘されるのは、
実際には演奏できないもので、祭祀品として奉納されている。



現在は、外来の楽と日本古来の楽の両方をくくって雅楽とされているが、
それぞれ別のものだ。

和琴は現在も日本古来の楽(国風歌舞 くにぶりのうたまい)と、
宮中の祭祀儀礼に用いられる。



「こと」(和琴、みこと)の「こと」は、
琴であって、「ことば」の「こと」であり「事」であり、

「こと」という名の音から、

「こと」が一木をくりぬいた楽器であるのは、
木に宿るもの(イノチ タマ 神霊)のことばであり音が
意識された部分があろうと想像する。


石や木や山や河、自然の森羅万象に命が宿ると考えられていたものが、
出土する和琴(こと)にも反映されていたのではないかと私は思う。



参考:笠原潔『埋もれた楽器 音楽考古学の現場から』




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つづく
by moriheiku | 2009-08-16 08:00 | 歴史と旅
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