中世芸能の発生 59 童子形 子供と野生



つづき


八瀬童子、牛飼童、堂童子。

祭礼の稚児に見られるように、
昔は、子供は聖なるものに近いと考えられていた。

大きな動物、強い動物、特徴的な外見や特別な能力のある動物も
神と見られ神聖視されてきたが、
やがて畜生などと言われるようになった。

動物が神聖視されなくなる傾向は仏教の影響が大きいが、
なお子供は、
「矜羯羅(こんがら)童子」「制咤迦(せいたか)童子」、
『信貴山縁起絵巻』に登場する童子形の「剣の護法」など、
仏の従者でありつづけ、聖に近く考えられていた。

稚児観音も、こうした子供の聖性を観音としたものだ。


「七歳までは神のうち」という言葉は、
子供のうちに命を落とすことが多かったことも関係があるだろうか。

幼い子供の魂は、まだこの世に定着していない、
あわいにあるのだと考えられていた。



こうしたことから、
童子形は、聖なるもの神仏オニに近い異能の印だった。


大人になっても髪を結わず、月代を剃らず、
おかっぱの禿髪や垂髪の童子形だった人々がいた。

例えば牛飼童、八瀬童子、鵜飼・・・



成人の童子形は、聖なるものに近い者という印。

貴族の牛車を引くのが童子形の牛飼童であったのは、
牛の野生を扱う異能の力を期待されたことだっただろう。
露払いのように、祓いの人を前に立てて牛車で進むのだ。

他にも猿曳、鵜飼、鷹飼などの童形が、絵巻に見られる。

関西の京に近かった地方の人々にとっての、
野生と、それを扱う人への畏怖の感覚が息づいている。



参考:網野善彦(著) 『中世の非人と遊女』







・2009-02-02 中世芸能の発生 60 芸能者の童形
・2008-07-21 中世 07 芸能の独立


・2009-07-13 中世芸能の発生 173 修験道 原始回帰
有髪、長髪の思想と系譜


異能の童子 仏教への帰依
・2009-02-03 中世芸能の発生 61 異能の童子
・2009-02-01 中世芸能の発生 59 童子形 子供と野生


・2009-07-13 中世芸能の発生 175 堂衆と千日回峰行
童子(古い信仰に連なる人々)は、
仏(僧侶)の従者の位置づけにあった


・2010-11-12 中世芸能の発生 366 酒呑童子




鵜飼
・2009-09-23 中世芸能の発生 203 狩猟 採取
・2009-09-06 毎年に鮎し走らば
・2009-02-11 中世芸能の発生 67 船の上の遊女 お能『江口』
・2009-01-27 中世芸能の発生 56 お能『鵜飼』 非人
・2010-10-30 水の旅 宮滝 鵜飼
・2010-10-29 水の旅 東吉野村 鮎



・2009-03-01 草の息




つづく
by moriheiku | 2009-02-01 08:00 | 歴史と旅
<< 中世芸能の発生 60 芸能者の童形 中世芸能の発生 58 天皇と山人 >>